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Ep.3-44

「たわごとを――」


ファレロは、震える声で父の言葉を短くそう切り捨てた。そんな彼を、マラカルド王は静かに笑いながら見つめている。


「――まあいいでしょう。あくまでこの話は、王がこの後身罷られたらという仮定の話。それよりも、そろそろ玉座の間の準備もできる頃でしょう。父上、そろそろお召し変えてご準備を」


「うん? 着替える必要などあるのか?」


マラカルド王はわざとらしく首をかしげて見せる。そんな彼に、ファレロは苛立たし気に表情を歪めながら、努めて落ち着いた声で諫めるように父王に返答する。


「謁見は父上がお決めになって、命じられたことでしょう。玉座の間にて謁見の儀を行うのなら、それらしい恰好をして頂かなくては」


「そうか。ふむ、そう言う段取りか」


マラカルド王は何かに納得したようにうなずくと、グラスに残ったワインを口に含んで楽しんでから、ゆるゆると立ち上がってクローゼットへと歩み寄る。そんな彼の背中を見ながら、ファレロは口を開く。


「――誰か手伝いを呼びましょうか」


「よい、自分で出来る――無駄なことはしたくはないのでな」


そう言って、マラカルド王はクローゼットからガウンと紫色のマントを取り出して、手早く着替える。腰には、ファレロと同じように白金細工のベルトと細身の儀礼用の剣を差して身なりを整える。

そんな彼の様子を背後でじっと見ながら、ファレロは静かに口の端を吊り上げた。


「――父上、御髪が乱れております。お直しいたしましょう」


ファレロはそう言いながら、ゆらりゆらりと一歩ずつ、音を殺すようにして父王に近づいていく。その右手を腰に差した剣に伸ばしながら。

一歩、また一歩――剣の間合いまで近づいていく。そして次の瞬間――


「悠長に声を掛けて近づくなど愚策も愚策――殺るのなら、一息に駆け寄ってその剣で我が首を刎ねるのが最適解ではないか? ファレロ」


どこか楽し気なマラカルド王の声が執務室に響いた。その言葉に、ファレロの心臓はどくんとこれまで感じたことの無いほどに強く脈打ち、ファレロはその場で凍り付く。


「なんだ、やらんのか?」


そう言ってマラカルド王は、ファレロの方に振り向いた。余裕綽々としたその顔に、ファレロの顔は引きつっていく。


「ほれ、やはりお前は顔に出すぎる――こんな致命的な瞬間であってもな。やはりお前は王の器ではないわ」


「どうして――」


「加えて腹芸も下手くそと来た。そこの床にワインのシミと割れたグラスが落ちていた辺りで予感はあったが――まさか、得物をちらつかせて部屋に入ってきたうえに、王位継承の話までし始めるとは……呆れて物も言えん。これでは、どんな阿呆でもお前の腹の底の底まで簡単に見通せるわ」


マラカルド王は、ゆるゆると首を横に振りながら一歩ずつファレロに近づいてくる。ファレロは、そんな父親を恐れ、怯えるように一歩、また一歩と後ずさる。


「どうした、やらんのか? ならば貴様の首を刎ねて、エリオス・カルヴェリウスにでもくれてやるか。アリキーノ子爵を派遣して奴を捕らえようとしていたのはお前の独断であったことにしてな――ふむ、親殺しと大逆罪の咎を帳消しにするにはちょうど良い役回りであろう?」


壁際に追い詰められるファレロ。そんな彼を見つめながら、マラカルド王は無慈悲にも腰の剣を抜いた。ギラリと光る刀身が外の赤い光を映して艶めかしくきらめいた。


「――殺すのですか、私を! 私は実の息子ですよ?」


「殺すとも。邪魔となる駒は捨てるに限るからな」


そう言って、マラカルド王は剣を大きく振り上げる。しかしその瞬間、ファレロの口が醜く吊り上がった。その瞬間、マラカルド王はわずかにたじろぐ。そんな彼をまっすぐ見つめたまま、ファレロは小声で言い放った。


「――そうですか。なら私も邪魔な駒を排除するとしましょう」

episode3終わったら、1週間ほどお休みをいただこうかなー、などと思ったりもしているのですが、どうせ書きたくなったら書いちゃうし、書いちゃったら読んで欲しくなっちゃうので、意味ないかなーなどと思いつつ……

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