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Ep.3-43

「次の王――くく、お前が気になったのはそこか。まあ、そんなところだとは思っていたが……」


マラカルド王はグラスにわずかに残ったワインをぐいと飲み干して、空になったグラスに再びボトルを傾ける。そして、それをゆらゆらと揺らしながらもったいぶったように笑う。

対するファレロは、苛立ったように足を鳴らす。そんな彼を、にやりと笑って見上げながらマラカルド王は口を開く。


「――少なくとも、儂はお前にこの国を任せる気はない」


「な――」


予想をしていなかったわけではない。それでも、ここまではっきりと言われてしまうのは完全に予想外で、ファレロは唇を震わせる。


「なぜ――」


「何故か? そうさな、一つはお前のその顔だろうなぁ」


「――?」


ファレロは顔を上げてマラカルド王の背後の窓を見る。引きつった顔、わなわなと全身を震わせている自分の顔が、窓ガラスに映る。

困惑するファレロに、くつくつと喉の奥で笑いながらマラカルド王は言葉を続ける。


「お前は感情が顔に出すぎる。今この瞬間でさえも。そのような者に政や軍事を任せるわけにはいかぬな」


「では誰に任せるというのです! 貴方の頼りにしていたルカントは死にました!」


「そうだな。お前が御前会議に推挙した我が国の『勇者』として――奴は死んだ、殺された」


ぎろりとマラカルド王はファレロを見上げながら刺刺しくそう言い放った。どくんと心臓が脈打ち、ファレロの表情はひときわ強張る。

そんな彼を見上げながら、王は言葉を続ける。


「ほれ見ろ。図星を突かれて驚いた顔を隠せておらなんだ――宮廷内で自身の権力固めをして悦に入っていたようだが、王族の地位と金にモノを言わせたあんな児戯で、王の器を証明したと思っているのなら片腹痛いわ」


「――だ、だったら……誰が王座に就くと? 他の王位継承権者はまだ若い、私の他に王に成りえる者など……」


口角泡を飛ばす勢いで、まくしたてるファレロにやれやれと言わんばかりにかぶりを振って大きなため息を漏らすマラカルド王。


「そんなものはどうにでもなる。王家の親戚筋から摂政でも出して、補佐させればよい。なんだったらエリオス・カルヴェリウスに王位を与えて、それを王族が摂政として補佐する形で実権を握るというのでもよいかもしれぬな――どちらにしても、余はお前にだけは王位を継がせる気はない」


「何故そこまで私を――!」


「理由ならいくらでもあるがな――ルカントを『勇者』として王位から遠ざけようとした狭量さ、直ぐに思っていることが表に出てくるその顔、短絡的な思考と楽観、取り巻きの貴族以外からの人望の無さ。そして何より――」


マラカルド王はそこで言葉を切ると、机の中から何やら取り出した。それは、チェスのようなボードゲームの盤だった。マラカルド王は、折りたたまれた盤を開き、その中から黒い駒を一つ取り出す。他の駒と比べてもひときわ豪奢なそれをつまみながら、彼は嗤う。


「お前は理解しておらぬ――(キング)もまた、駒の一つに過ぎないというコトをな」

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