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Ep.3-39

王都マルボルジェの中心にそびえる王城――つい一時間ほど前までは、静謐な夜の闇が支配していたはずの宮殿は、今や混乱極まっていた。王宮の心臓部、御前会議室では下級官吏や騎士たちが駆け回り、貴族たちが怒鳴り散らしながら議論をしている。それをどこか冷ややかな目で玉座より見下ろしながら国王・マラカルド三世は黙って、騎士たちの報告や貴族たちの議論を聞いていた。

この混乱の原因はもちろん、王都に突如現れた四匹の紫炎をまとった竜と、それを操る正体不明の少年魔術師――尤も、マラカルド王にはその正体も何とはなしに予想がついていた。

自身の息子(ルカント)を殺し、彼の同胞の二人も殺した、ベルカ公国の森の奥深くに住む強力無比の魔術師。アリキーノ子爵に千人以上の兵を与えてまで、王国の駒として捕縛せんとした男――エリオス・カルヴェリウス。

東方――ベルカ公国の方角――から飛来した赤い炎の竜の姿を見た瞬間に、嫌な予感はしていたが、騎士たちのいくつもの報告を聞くにつれて、その予感は確信へと変わっていた。


「――よもや……」


玉座の肘置きの上で、握りしめた自身の拳が震えているのを見て、マラカルド王は思わず歎息を吐いた。恐怖している、戦慄している――大陸の覇王として名を馳せた此の自分が? その事実に、マラカルド王は表情を歪めて、かぶりを振った。

アリキーノ子爵がエリオス・カルヴェリウスを捕え損ねる――もっといえば、アリキーノが敗北することさえ、マラカルド王の中では想定の範囲内ではあった。ルカントが見込んだ稀代の賢者――リリス・バーリエルを絶望させるほどの圧倒的な実力差。人質の確保に失敗して、衝突することになった場合は、その魔術によってアリキーノや千を越える兵士たちが殺される可能性も考慮に入れてはいた――最悪の想定ではあるが。

しかし、マラカルド王にとっての予想外はエリオスがこの国そのものに報復をしてきたことだった。

レブランク王国は名実ともに大陸一の国家だ。擁する兵力は十万や二十万では済まない。その心臓部にいきなり殴り込みにやって来る――それも一人でなどというのは、正気の沙汰ではない。少数精鋭のルカントたちの一行や、高々千人やそこらのアリキーノ率いる討伐隊を屠るのとはわけが違うのだ。加えて王都は、エリオスにとっては完全な敵地だ。そこに単身攻撃を仕掛けるなどというのは、よっぽどの愚か者か、或いは――


予想外はそれだけではない――エリオスが今このタイミングで王都にやってきたという事実。それが、マラカルド王にとっては何よりも信じがたいコトだった。

アリキーノたちが王都を発ってからまだ三日――ようやく、エリオスの居館にアリキーノたちが到達するかどうかという頃合いだ。

だというのに、エリオスがすでにここにやってきているなんて――まるで、アリキーノたちを倒した後に何の気なしの――ふとした思い付きで散歩にでも出かけるかのような――フットワークの軽さで、王都襲撃に及んだのではないかとすら思わされる早さだ。


「陛下、陛下! ――父上!」


マラカルド王が目を閉じて考え込んでいると、不意にもう一人の息子(ファレロ)の声が鼓膜を揺らした。目を開けると、狼狽を隠すことが出来ないでいるファレロの顔が間近に飛び込んでくる。マラカルド王は、そんな彼の顔に微かに表情を歪めながら重々しく口を開く。


「――何事だ?」


「や、やつが……城門前の広場に――!」


震える唇で、ファレロがそう告げた瞬間、マラカルド王は悲痛の色に表情を染めて、目を閉じた。

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