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大罪踏破のピカレスク~人間に絶望したので、女神から授かった能力で誰よりも悪役らしく生きていきます  作者: 鎖比羅千里
Episode.1 The fate of people who Enter into the palace of Villain...
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Ep.1-6

「手荒いなぁ――もしかすると、お客人ではなく賊の類だったのかな?」


相も変わらず紫檀の玉座に腰掛けながら少年は、その見た目にそぐわぬどこか老成した口調でとぼけたようにそう言ってみせた。

突然のリリスからの攻撃に一切の動揺もなく、むしろ笑みすら浮かべたその姿に一行は困惑を隠せない。

そんな中、ルカントは大きく息を吸って呼吸を整えると、一歩前に進み出て少年に問いかける


「――お前は、いったい何者なんだ」


ルカントの低い声が広間に響く。落ち着き払った声――その響きは、浮足立った同行者たちの心を静める。

そんな彼の問いかけに、少年はいたずらっぽく口の端を吊り上げる。


「おやおや、自ら名乗ることもなく人の名を尋ねるなんて、客人にあるまじき礼節の無さだな。もしかして貴殿ら本当に賊の類?」


「――賊であろうとなかろうと、得体の知れぬ魔術師に名乗りなぞあげられるものか」


どこか軽々としていながらも、何故か心臓を掴まれたような得体の知れぬ不快感を覚える一音一音の響き。少年の口から紡がれる毒気のあるその言の葉に、ルカントは表情を歪めながら応答する。


仲間たちの下がった士気を何とか引き上げんと前に出てみたが、逆に圧倒されてしまっている自分に気付きルカントは自らのふがいなさを恥じる――勇者である自分が、あんなひ弱な少年に。


そんな彼の葛藤などつゆ知らず、少年はふむと頷いて見せる。


「なるほど、一理あるな。そもそも必要もないか‥‥‥うん、では寛容を以ってその非礼を見逃し、私から名乗るとしようか」


そう言って少年は肩肘をつくのをやめて、居住まいを軽く正す。

そして、蹴り上げるように足を振り上げ、組みながら、まるで王侯が平民と相対するかのような尊大さを以って名乗りを上げる。


「私の名はエリオス。エリオス・J・カルヴェリウス――気軽にカルヴェリウス卿とでも呼びたまえよ、諸君」


少年――エリオスは傲慢そうな笑みを浮かべながら高らかに、よく響く声で名乗る。軽々とした口ぶりながら、その名の一音一音がびりびりと広間を、そしてルカントたちの身体の髄を掴んで揺らす。


「――エリオス‥‥‥カルヴェリウス」


ルカントはその名前を反芻する。


「さて、ルカント王子殿下? この名を聞いて君たちはどうするのかね」


「――ッ!?」


エリオスは、ふいに名乗っていないはずのルカントの名を口にする。

その瞬間弾かれたような戦慄が一行の中に奔る。エリオスはその様を見てどこか不思議そうに首をかしげながら、口元に手を当てて小さく上品に笑って見せる。


「おいおい君たち、人の城でぺちゃくちゃ喋ってて、主に聞こえてないとでも思ったのか?」


聞こえるはずがないだろう。

ここは敵地――誰かに聞こえるほどの声でしゃべるはずがない。現に彼らは城に入ってからは、耳元で囁く程度の発声しかしていないのだ。


ということは、おそらくここまでの道のりに盗聴の魔術か仕掛けが組み込まれていた、ということだろう――それも超高精度の。

この瞬間、ルカントは悟った。自分たちは目の前の魔術師の城にいるのではない。自分たちは、この魔術師の掌のうえにいるのだと。

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