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Ep.3-34

「なんだアレは――」


東の山脈の彼方から飛来する赤い光を帯びたナニカ――翼のようなものを上下させて羽ばたくソレに、マラカルド王は言いようのない焦燥感に似たモノを感じていた。

東——ベルカ公国の方角か。ふとそのように思い至った瞬間、背筋にぞくりと怖気が走る。


「まさか——いや、だが……」

「どうされました、父上」


背後からワイングラスを離さないままにファレロが近づいてくる。マラカルド王は、その赤く光るナニカを無言で指さした。


「鳥か? いや、しかし——」


凄まじい速度で真っ直ぐに近づいて来ているのだろう。次第にその姿は大きく、そして鮮明になっていく。

マラカルド王は、踵を返して窓に背を向け、部屋の扉へと向かう。


「どこへ?」


「近衛兵たちの詰所じゃ。警備を固めさせる——王都の駐屯兵や傭兵どもにも守りを固めさせるのじゃ」


マラカルド王はファレロの方を振り返ることなく、足早に扉の方へと向かいながら応えた。そんな父に、ファレロは咎めるように言う。


「そのようなこと、国王自ら行かずとも——」


そこまで言ってファレロは思わず口を閉じる。

父が——国王が自分をぎろりと睨みつけていたからだ。

ファレロは父のその目が苦手だった。瞳のギラギラとした輝きだけで、人を射竦める。どんな巨漢であっても、彼に睨みつけられればたちまち猛獣の前に放り出された小動物に成り下がるような圧が彼にはあった。いくつもの国を、軍事と政治力で潰して喰らってきた肉食獣(ケモノ)——それが彼だ。

最盛期からすれば、ずいぶんと老いたとはいえ、獅子は獅子なのだ。

そんな彼が、獅子が威嚇するような、低く唸るような声でぴしゃりとファレロの提案をはねのける。


「愚か者。あの速度を見て、わざわざ誰ぞに取り次がせるべきとでも言うのか? それともお前が近衛騎士団に指揮を下すのか? 弟と違って騎士達からの信頼の薄いお前が?」


「——ッ」


父の吐き捨てた言葉に、ファレロの脳裏には既に横死した弟——第二王子・ルカントの顔が浮かんだ。

武勇に優れ、人格にも優れた男。宮廷内の権力闘争にあけくれた自分とは違い、騎士や兵士たちからの支持、人気も高かった弟。王位継承権は自分よりも下位でありながら、その人気ぶりで自分の地位を脅かした憎っくき第二王子。

ルカントの澄ましたような、どこか冷然とした顔を思い出して強く歯噛みするファレロに、マラカルド王は小さくため息を吐いた。


「——お前の使い所はここではない。大人しくしておれ」


そう言って、マラカルド王は再び息子を一瞥することなく部屋を後にする。ファレロはそんな彼を唇を震わせながら見送った。

ファレロは知っている。父王の言葉には他意——たとえば、ルカントの代わりにファレロが死んでいれば良かった、などというもの——はない。

ただ、ファレロという駒がこの局面では使えないと考えたからそう言ったまでなのだろう。

マラカルド王にとっては、ファレロもルカントも等しく自身というプレイヤーが、国を大きくするというゲームのために用いる駒の一つに過ぎないのだ。

それは知っている、分かっている。しかし——


「——クソが」


ファレロは手に持っていたワイングラスを思い切り床に叩きつけた。

パリンという軽い音と共に、ガラス片とワインが床に広がる。

粉々に砕け散ったガラスの欠片には夜の闇と近づいてくる赤く光るナニカが映っていた。

2話連続で主人公が出ないとは……でもよくよく考えたら、エピソード1も前半はあんまり出てなかったなぁ、などと回想。


ストック切らしながら書いてますので、後々若干の修正が入るかもです。その際はご理解の程お願いいたします。


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