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Ep.3-33

レブランク王国——大陸随一の国土と軍事力を誇る大国。その権威は今や、世界最大宗教の総本山・アヴェスト聖教国と並ぶほど——実質的な権力で言えば、はるかにそれを凌駕すると言われている。

そんな栄華極まる王国の心臓部たる王都・マルボルジェ——その中心に高く聳える白亜の殿堂。壮麗豪奢な建物。それが、レブランクの王城だった。


月光照らす城の中、暗い一室の中ちろちろと燃える蝋燭を挟んで2人の男が向かい合っていた。

1人は白い髭を蓄えた老人——国王・マラカルド三世。豪奢なローブに身を包み、香り高い紅茶を惜しげもなくぐいと飲み干しながら、ぎろりと鷹のような目で相対する男のにやけ面を窘めるように睨む。

一方の睨まれた男――彼の息子、レブランク王国第一王子・ファレロは、そんな父の顔色を気に留めるでもなく、ワイングラスを片手で揺らしながら、赤紫の水面が複雑な紋様を描くのを眺めていた。

会話も、物音もない沈黙が支配した部屋の中――その静寂を破ったのはファレロだった。


「――そろそろ、アリキーノ卿がやつを捕縛したころでしょうかねぇ」


ワイングラスを口に運び、それを舌の上で遊ばせながら味わい、そして飲み下す。そんな彼をじっと見つめたまま、マラカルド王はいら立ちをわずかににじませながらつぶやくように零す。


「エリオス・カルヴェリウスに敗れていなければ、な」


「ハハハ、ご冗談を。たった一人のために千人もの兵士を送り込んだのですよ? 貴重な魔術師兵たちも百人はつけた。そしてなにより指揮官はアリキーノ――万に一つも敗れることなどありますまい」


ファレロはくつくつと笑いながら、そう言って王の懸念を一蹴する。

そんな彼の言葉に眉根を寄せながら、マラカルド王は紅茶を再び口に運ぶ。


「——それもそう、であるか」


「それよりも厄介なのはあの女魔術師ですよ。拷問——もとい、再教育の責任者であるアリキーノが討伐準備のためにその任から離れてから、徐々に正気を取り戻しだしましてね」


腹立たしい、とでも言いたげなわざとらしい口振りだがその顔は笑っていた。

きっと、今度は自分の手で(ルカント)のモノだった女を傷つけ、穢すことへの嗜虐の悦びが抑えられないのだろう。

そんな息子の顔を見て、マラカルド王は深いため息をついた。


「アリキーノの帰陣までの間、処理はお前に任せる——ただし、殺してはならぬし、足や腕、指の一本も削いではならぬぞ。兵力として使い物にならなくなってはコトだ」


「それは、それ以外なら何をしても良い——と?」


ぬらりとした瞳を輝かせ、ファレロはそう尋ねる。そんな彼に応えることなくマラカルド王は、静かに席を立って窓際へと向かう。

美しく磨かれた窓ガラス越しに、王都マルボルジェの夜景がマラカルド王の瞳に映る。

——この国は大きくなった。自身が即位する前も、大陸の中では最大の版図を持つ王国であったが、今やレブランクの領土はかつての比ではない。

王に即位して以来、多くの国を取り込み、あるいは滅ぼしては領土に組み込んできた。

ベルカ公国をはじめとする属国も多い。

それでもまだ足りない——もっと力が、富が欲しい。なぜ、何のために? 理由などもはや忘れた。それでも拭い切れない渇望。

ルカントという駒は残念なことに死んでしまったが、それでも収穫はあった。あの愚息を殺したエリオス・カルヴェリウスはこの渇きを癒すための有望な駒だ。

欲しい——なんとしても。


マラカルド王はガラス窓に手を当て、強く強く東の夜空を睨みつける。

そんな中、彼は気づいた。

赤い光が、山脈の向こうからこちらへと飛んでくるのに。

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