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Ep.3-29

「――お遊び……ですと……」


アリキーノはエリオスの言葉を復唱しながら、わなわなと拳を震わせる。それは、王国最高の戦力であると自負する近衛騎士第二師団の長としてのプライドが貶められた屈辱からか。それとも自分たちの持てる全てのカードを切ったにもかかわらず、児戯のごとしと言い捨てられたことへの恐怖からか。あるいは、その両方だったのかもしれない。

息が荒れる、焦点が定まらない――目の前でほほ笑む華奢で幼い少年が、今まで出会った何者よりも恐ろしい。

周りの兵士たちも狼狽えだす。後方の兵士の中には、すでに後退したり、逃げ出す者もいる。軍の統制が崩壊し始めているのだ――こうなっては、たとえ千を超える兵がいたとしてもそれは兵力と見なすこともできない烏合の衆にすぎない。

前線の兵士たち――アリキーノの直属の部下である第二師団の兵士たちさえも、強い動揺が生じている。どんな汚いコトも、どんなにおぞましいコトも、何度も成し遂げてきた彼らが、今怯えているのだ。

その様を見て、アリキーノは強く歯噛みする。そして、剣を抜く。


「――全軍に告ぐ!」


馬上から、アリキーノが吠えた。

空気がびりびりと揺れる。


「――逃げたいものは逃げるが宜しい! だが! 今ここで我らがこのエリオス・カルヴェリウスを止めなければ、彼は我らが祖国に害を為すだろう!」


その言葉に、逃亡を始めていた後方の兵たちすらも、ぴたりと脚を止める。アリキーノは自身の言葉が、兵士たちに効果をもたらしていることを確認してから、大きく一つ息を吸って、再び叫ぶ。


「汝らに問いましょう――汝らは何のために戦場へと向かう? 何のために死地へと飛び込んで来た? 金か、名誉か――否、それは些細なことだ! 真なる目的はなんだ!」


アリキーノの演説に、兵士たちは互いを見交わす。逃げ出していた兵士たちが戻って来る。そんな様を見て、エリオスは少し驚いたような表情を浮かべていた。それを見て、アリキーノの演説は勢いに乗る。


「私の目的ははっきりしている。国を守ることだ――そしてその盾となること! 汝らはどうだ。祖国かもしれない、或いは同胞、家族、恋人か? なんでもいい、守りたいものがあるから王国兵に志願したのではないのか、守りたいものがあるから力を、武術を、魔術を磨いてきたのではないのか! 私は少なくともそうだ! だから私は戦う! 命を落としてでも――さあ、諸君らはどうか!」


「オオオオォォォ!」


アリキーノが剣を一層高々と振り上げる。その瞬間、大地を、森を揺るがさんほどの声が兵士たちから上がる。それと同時に、兵士たちは武器を手に取り握りしめ、一斉にエリオスに向ける。

そんな様を、エリオスは忌々し気に見ていた。

最早戦術も策略もあったものではない。ただひたすらの力押し、数の暴力――単純で愚劣、されどこれを凌ぐのは存外至難だ。倒せど倒せど殺到する兵士と刃。矢や魔術だって飛んでくる。

そして、それを行う兵士たちは決死と来ている――先ほどの力押しとはわけが違うのだ。

勝利を確信したわけではない――しかし、アリキーノは強く勝利を信じ、願い、そして叫ぶ。


「愛国の(つわもの)たちよ、いざ掛かれェ!」


アリキーノの掛け声と共に、兵士たちは武器を手にエリオスへと駆け寄る。

そんな槍衾に包まれたエリオスは、大きく、深くため息を吐いて、顔を上げる。そして――


「はあ、うっざ」


短くそう吐き捨てた。

ちょっと口の悪いエリオスくん笑

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