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Ep.3-25

「な——」


アリキーノは絶句する。そんな彼をエリオスはにこにこと笑いながら、更に言葉を重ねる。


「そう、死ねば良かった。特にアリキーノ子爵、貴方はね。私は貴方に教えてあげたね——この後貴方が辿る末路を。アレを回避するには、方法はたった一つ。自分の首を掻き切って死んでおけば良かった。そうすれば、最悪の死に様を迎えることだけは避けられたのにねぇ……」


「——ッ!」


アリキーノは舌打ちし、強くエリオスを睨みつける。そんな彼に、エリオスは口元を手で隠して上品に笑ってみせる。


「くふふ、もしかしてまだ、『勝ち目がある』なんて思っているのかな? この私を相手に?」


「馬鹿じゃないの?」そんな言葉が聞こえるような顔だった。

その言葉の一音一音はまるで毒のように、兵士たち、そしてアリキーノの心を掴み潰す。どくん、どくんと早鐘を打つような心臓の音——絶対の自信を持っていたはずなのに、アリキーノの表情からはそれが徐々に霞み消えていく。

——この男は倒せないのではないか、どんな策謀も、罠も全て自分達ほど踏み躙られて終わるのではないか。そんな畏れが立ち込め始める。

しかし、アリキーノは強く首を横に振る。


「——全軍、構えィッ!」


引き攣ったようなアリキーノの声が響いた。

その声で、兵士たちは正気を取り戻したように武器をエリオスに向ける。


「束縛式——起動!」


アリキーノは抜き身の剣の切先をエリオスに向けて振り下ろし号令をかける。それと同時に、兵士たちの輪の中から、魔術師と思しき兵たちが進み出て、その手に持った杖を振りかざした。

その瞬間、地面から赤紫の光が走る。


「——へぇ。準備のいいことで」


エリオスはどこか感心したような声を上げる。

エリオスの足元、円環を描く光の筋の中には幾何学的な文様が現れていた。


「奴をあの場に縫い止めろッ!」


アリキーノがそう叫ぶのと同時に、エリオスの足元に広がる円環の魔法陣からは幾本もの鎖が飛び出して、エリオスの細い身体を絡め取る。


「——ッ!」


エリオスの華奢な身体は、黒く太い鉄の鎖にぎりぎりと締め付けられ、今にも折れてしまいそうに見えた。流石のエリオスも、その痛みに表情を歪める。


「——前衛、掛かれ」


アリキーノのその号令で、エリオスを取り囲む兵士たち、その先頭にいた者たちが槍を構えて猛然と拘束されて動けないエリオスに殺到する。

ギラリと光る幾つもの穂先が、鎖帷子さえも着込んでいないエリオスに迫る。

だというのに、エリオスの顔は微笑すら湛えていた。


「『‥‥‥踏破するは(Realize my)暴食の罪(Gluttony)』」


エリオスが詠い紡ぐ言の葉が、耳に届いた瞬間アリキーノは強く表情を歪めた。

しかし最早、地獄へと殺到する兵士を止めることはできなかった。


「『私の罪は(Deprive)全てを屠る(your ways)』」


結びの詞——その最後の一音がエリオスの唇から解き放たれたのと同時に、彼の周りを黒い風の塊が吹き遊び、殺到した兵士たちを飲み込んでいく。

轟音吹き鳴らす黒風の向こうで、幽かな断末魔の響きが浮かんでは消えた。

黒風は数秒の後に霧散した。その後にはひとり、鎖に縛められながらにやりと笑っているエリオスだけが立っていた。


「——ごちそうさま」

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