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大罪踏破のピカレスク~人間に絶望したので、女神から授かった能力で誰よりも悪役らしく生きていきます  作者: 鎖比羅千里
Episode.1 The fate of people who Enter into the palace of Villain...
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Ep.1-5

呆気にとられた一行を前に、少年はくつくつと背中まで伸びた艶やかな黒髪を揺らして笑う。


「どうしたね? お客人なんだろう? そんなところで案山子のように突っ立っていないでさ、もっと近くへおいでなさいな」


少年は笑みをこぼした。それがいかにも悪人然とした、不気味に下卑た笑みだったのなら良かったのに――彼は、ふわりと花が咲いたように人懐っこい笑みを浮かべていた。

濃密に渦巻く魔力の中で、そんな風に笑う少年――そのアンバランスが、彼の不気味さをいっとう引き立てていた。


「――お黙り!!」


少年の言葉にはじかれたようにリリスは構えた杖の先に魔力を集め、無詠唱で炎の塊を彼に向けて投げつける。轟と風を切った火球はまっすぐに少年を焼き尽くさんと飛んでいく。


「へえ、無詠唱」


少年は、ほうと息を吐きながら感嘆の声を上げる。


本来魔術は呪文という形をとった魔術式の詠唱を行わなくては発動できないのだが、世界でも有数の大魔術師の中にはそれらを省略することが出来る異端なる才能の持ち主も存在する。

リリスはまさしくその稀有な才能の持ち主であり、それゆえにルカントに見いだされたのだ。

無詠唱であってもその炎の熱にも威力にも一切見劣りするところはなく、むしろその火力は並みの魔術師十人分の魔術攻撃にも匹敵する代物――しかし


「素敵な才能だね。ああ、とっても素敵で‥‥‥怖い才能だ」


そう言うと、少年は小さく何事かつぶやきながら、目の前の空間に指を横一文字にすっと走らせる。


その瞬間、魔術師の目の前の空間が裂けた。

文字通り、ナイフを入れた魚の腹のようにぱっくりと口を開けたように空間が裂け、その先の黒々とした混沌の中へと、リリスの放った炎は飲み込まれて消えていく。


「な――!」


リリスは思わず声を上げる。

今まで彼女がこの魔術を使って勝てなかった者は、今彼女が仕える勇者ルカント以外には一人もいなかった。

この魔術は単なる火球を放つものではない――その圧倒的火力は、いかなる盾も、鎧も、魔術的防禦でさえもすべて焼き払い、融かし、貫く彼女の切り札の一つ。

そんなある種の決戦機能的火力を彼女は今、初手で、しかも不意打ち同然に打ち込んだ――リリスはそれだけ目の前の存在に危機感を感じていた。

今の攻撃は、目の前の得体の知れぬ存在を、身の内で蠢く焦燥感とともに一瞬で葬り去るための一撃だったのだ。


しかし、その危機感、焦燥感は最悪の形で――それも自身の手によって――裏打ちされることになった。

リリスの顔が困惑と、怒りと、そして恐怖に歪む。

誰も防いだことの無かった魔術を防がれたこと、それも十分恐ろしいことではある。しかし彼女が何より恐れたのは、


「あんな魔術――知りませんわ‥‥‥」


全身の力が抜けたように、へたへたとリリスは杖にすがる。そのおぼつかない足元は、まさに生まれたての小鹿という形容がふさわしい姿だった。


「何!?」


「嘘――ッ!?」


リリスの言葉に、一行の全員の表情が驚愕に染まる。


――ルカントはリリスを当代随一の天才魔術師と見込んで彼女を魔王討伐の旅路に引き入れた。

性格に難のある彼女ではあったが、その実力も経歴も確かなものであったから。

大陸の西端にある魔術国家メルリアで生を受け、14歳という若さで国立魔術大学校を首席卒業した。そして、それ以降もありとあらゆる魔術の研鑽・研究・収集を重ね、魔術の知識と技術を極限まで研ぎ澄ませた。そんな彼女の頭脳には、いまや世界の古今東西ありとあらゆる魔術やその体系が網羅的に刻み込まれている。


その彼女が知らないということ――それが意味する事実はただ一つ。


「――これまでのあらゆる魔術体系に属さない‥‥‥完全なる未知の御業、ですわ」


リリスが絞り出した言葉に全員が戦慄した。

その様を、少年は新しいおもちゃを買い与えられた子供のような目で見ていた。

ようやく主人公がまともに喋りました笑


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