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Ep.3-23

打ちひしがれ、泣き叫ぶことしかできない。ああ、まただ――結局自分はこうして人の命が損なわれていくのを止めることもできないで、こうして泣いているしかできないのだ。結局、自分は何もできなかった。

兵士たちの前に立って、彼らがエリオスと衝突することが無いように説得しようとしたけれど、ただの小娘の自分が――それも、敵地に身を寄せて生き永らえている卑怯な自分が、彼らに信じてもらえるはずもなかった。

エリオスを止めようとも思ったけれど、結局彼に剣を向けることも、彼の前に立ちはだかることもできなくて、結局口先だけ。それさえも何の成果も得られなかった。

結局自分は何の役にも立たない――ルカントたちの荷物持ちをしていた時と何も変わっていない。「少しは役に立て」――そんなルカントの言葉が、脳裏に響いた。

ふと、少し離れたところ――死んだ兵士たちの血だまりの中に聖剣(アメルタート)が落ちているのが見えた。赤黒い血の海の中にありながら、アメルタートは美しく輝いている――シャールには、それが死んだルカントの意思に思えた。

シャールは、血にまみれた手をアメルタートへと伸ばす。結局私は生きていても何の役にも立てない――そんな役立たずがのうのうと生き永らえているなんて、やっぱり許されない罪だ。ともすれば、あのエリオスよりも私は罪深い――


「何してんのよ、アンタ」


アメルタートに伸ばした手が掴み止められる。アリアだった。

シャールは、彼女に目を向けることが出来ず、うつむいたままその場で座り込んでいた。結局、自分は彼女を守ろうともしていたはずなのに、彼女が嬲られるのを見ているしかできなかった――アリアを見ているとそんな無力感が、いよいよ自分を押しつぶしてしまいそうで、怖くて、苦しくて。


「……来なさい」


「え……」


アリアはシャールの手を引き、広間を出る。散々に痛めつけられて、満身創痍のはずなのにその足取りはシャールよりもよっぽどしっかりとしていた。

階段を上がり、暗く静かな廊下を歩いた先――アリアとシャールがたどり着いたのは、館の食堂室だった。硝子越しの矢を受けて、ズタズタになったカーテンの隙間から、紅く灼けた空が見える。


「――どうして」


呆然と言葉を零したシャールの手を、アリアは容赦なく引いていく。二人はテラスに出た。


「嫌味――ですか?」


シャールは唇を震わせながら問う。アリアはそんな彼女の問いに答えることなく、テラスの前方へと向かう。

いやだ、行きたくない。やめてよ、苦しいの――抵抗したいのに、シャールは何故かアリアに逆らうことが出来なかった。足元に小さな血だまりが見えた。それを見て、シャールは弱弱しく唇を噛む。

テラスの前方の手すりに手を置いて、アリアはシャールの方を振り返る。


「――見なさい。これから始まるのは、アンタが打ちひしがれたアンタ自身の無力の末路。そしてアンタが倒すと誓った悪役(ヴィラン)の力の発露よ」


二人の眼下では、篝火を掲げた千人を超える兵士たちが、たった一人の黒い人影――エリオスを囲んでいた。

本日(2021.5.7)の夜の更新の後辺りで、Twitterの方でpicrew様で作成したエリオスのビジュアルイメージを投稿しようかなと考えてます!

よろしければ是非見に来てください笑


毎度のお願いではありますが、拙作をお気に召していただけた方は評価・ブックマーク等よろしくお願いします(既にしていただいている方はありがとうございます)。

感想、レビュー等もお待ちしております!

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