Ep.3-22
なんかepisode3めちゃくちゃ長くなってる……
エリオスは小さく息を吐くと、シャールに向き直った。冷たいはずなのに、その瞳はどこか穏やかに見えた。
「シャール、見苦しいところを見せてすまない――さて、何の話だったかな?」
穏やかな顔で問いかけるエリオスに、シャールは怖気を覚えた。しかし、ここで退けばエリオスは罪のない兵士たちまで殺すという確信がシャールにはあった。だから、シャールは食い下がる。
「――兵士たちを皆殺しにするのだけはやめてください。罪のない人まで殺す必要はないはずです」
「君はさ、何か勘違いしているんじゃないのかな?」
エリオスは冷たく言い放つ。その顔は先ほどと同じようにどこか穏やかで、笑みすら浮かんでいるというのに、その口調は凍てつくほどに冷たいモノだった。その言葉に、シャールは思わず返す言葉を失う。そんな彼女に、エリオスは畳みかけるように言う。
「『罪のない人まで殺す必要はない』――それはそうだろう、嗚呼私も同感だ。殺す必要なんて微塵もない。彼らは私にとってなんの脅威にもならないからね。仮令放っておいて逃がしたところで何も問題は無い。ここで遺恨を残して彼らが私に逆襲を仕掛けようと、彼らのような者が束になったところで私を倒すことなんてできはしない。そう、私が彼らを殺すことに合理的な必要性なんてないんだ」
「だったら――!」
「でもね――やっぱり君は勘違いをしているんだよ」
シャールの言葉をエリオスは無慈悲に、切り捨てるように遮った。そして、紅い瞳を鈍く輝かせてシャールを見下ろす。その視線に足がすくむ、立っている事さえ難しいほどの圧が込められていた。その場にへたり込んだシャールにエリオスは言葉を続ける。
「『必要がないから殺さない』――そんなのは、人を殺すことを厭う気持ちがある奴か、人を殺すのが重労働だと感じる奴の考え方だ。そして私はどちらでもない――人殺しを厭う善人でもなければ、人を殺すのが難しい弱者でもない。私は悪役だ、だから罪があろうとなかろうと気に障ったなら殺す――薄っぺらくて手あかのついた正義も、歪み狂った法も、穢れくすんだ権力も、そして君さえも、私を縛ることなどありえない。私を縛れるのは私と彼女だけだ」
「そ、んな――だって、あの人たちにだって人生があるんですよ? 待ってる家族や、大切に思う人たちがいるかもしれないんですよ? それを――」
シャールはエリオスの脚に縋りつくようにして叫ぶ。エリオスはそんな彼女を振り払うでもなく、それでいて受け入れるわけでもなく、冷たい仮面のような顔をして彼女を見下ろす。
「だから何だって言うんだい? 彼らは兵士だ、軍人だ。彼らは私から命を、人生を奪うために来た――ならば、奪われる側に回るのは当然の理だ。彼らはこの行軍に与した時点で、この当然の契約に同意したんだ――あとはその賭け金を回収しようとしまいと、全ては私の自由だ。善人ならば回収しないという慈悲をかけることもあるだろう、だが悪役である私はきっちりと回収する」
そこまで言ってエリオスは、頬にわずかに笑みを浮かべた。その笑みが、全ての終わりを告げるモノであるかのように思えて、シャールはエリオスのズボンを掴み、首をふるふると横に振る。やめて、やめて、やめて――言葉にしたいのに、声に出せない、涙が溢れてくる。そんなシャールを見下ろして、エリオスはにっこりと笑った。
「そう、必要だから殺すんじゃない――私が彼らを殺すのは必然なのさ」
そう言って、エリオスは必死に掴むシャールの手からするりと抜けて歩き出した。
後には、シャールの泣き声だけが響いていた。
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