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Ep.3-21

「まだ貴方は――彼らを殺すんですか」


シャールはそうエリオスに問うた。重くて、暗くて、冷たい――まるで鉄のような声と視線だった。そんな声と視線を向けられながら、冷ややかに答える。


「もちろん殺すよ。言っただろう、皆殺しだ」


「なんで、ですか」


俯いたままシャールは低くつぶやくように言った。そんなシャールの問いに「意味が分からない」とでも言いたげに首をかしげて見せるエリオス。シャールは、そんな彼の姿に自分の中で何かがぷつりと切れるのを感じた。


「――もういいじゃないですか! アリアさんを傷付けた兵士には復讐したでしょう? 他の兵士も追い払ったでしょう! アリキーノ子爵の首を欲しいというのなら、それだっていいでしょう。理解できます――でも、皆殺しにする必要なんてないでしょう。外の兵士たちは、何も知らないんですよ?」


シャールは最後は呟くように、広間の暗がりに融け消えるような幽かな声でそう言った。先ほど受けた矢傷を撫でながら。そんな彼女にエリオスは問う。


「君にその傷を与えたのは、その何も知らない兵士だったんじゃないのかな?」


「そうかもしれません。それでも、彼らは彼らの正義を貫いた結果として私を射たのです。なら、私はそれを罪だとは思いません」


シャールはまっすぐにエリオスの目を見てそう言った。寂しげで、それでも強い光を帯びた瞳だった。そんな彼女の目を見て、エリオスは表情をかすかに歪めた。そして、口の中で転がすような小さな声を漏らす。


「冗談じゃない――」


「え――?」


その声音がいつものエリオスとあまりにも違うように聞こえたので、シャールは思わず問い返す。しかしエリオスは呟くように、うわ言のように、シャールなど意識の外にいるかのように独り言を紡ぎ続ける。


「無知が、思考停止が罪じゃない? 冗談じゃない、冗談じゃない――アレが罪で無いものか、アレを許さなければならない道理があるものか。あんな無責任、あんな驕り、あんな暴挙、あんな愚行。あんな、あんな――」


「エリオス」


凛とした、玲瓏な声が響く。その瞬間、エリオスの熱に浮かされたような言葉が止まった。エリオスは振り返り、声の主を――アリアを見た。アリアは静かに、冷たい岩清水のような声で語りかける。


「それはシャールの価値観。貴方とは違う、別の者の価値観よ――アンタは何? 今更そんなこと、私の口から言わせるの? アンタは――『悪役(ヴィラン)』、なんでしょ?」


アリアの言葉に、エリオスは深く息を吸い、そして吐いた。その顔からは、先ほどの靄のかかったような色は消えて、研ぎ澄まされた刃のような色が戻っていた。エリオスは、小さく咳払いしてからアリアに笑いかける。


「そう、そうだね――すまない、まだ夢から醒めきっていなかったみたいだ」


「ええ、そうみたいね。古い夢に浮かされるなんて――」

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