Ep.3-19
投稿時間めちゃくちゃズレて申し訳ないです……
血と肉と骨にまみれ、苦悶のうめきがこだまする地獄のさなかにありながら、エリオスと彼の背に守られたアリアはただ泰然とそこに在った。その有様は退廃的なまでの神聖さと耽美を帯びた宗教画のようだっが。
エリオスは、かつかつと血に濡れた床を踏み鳴らし、片膝をついて床に転がった兵士の一人の頭を掴み上げる。
「う……あ?」
「ずいぶんと君も好き勝手やってくれたね」
エリオスは兵士の兜を放り投げて、その髪を思い切り掴み上げた。その兵士の顔に、シャールは見覚えがあった。確か彼は、取り押さえられたアリアを散々に蹴り嬲っていた男だった。兵士はエリオスの言葉の意味を理解したのか、歯をがちがちと鳴らしながら震えている。
「嬲ったからには、嬲られる覚悟もあるよね?」
にっこりと、この惨状には似つかわしくないほどに無邪気な笑みを浮かべてエリオスはそう言った。その言葉に、兵士は手首から先の無い腕を思い切り振って、エリオスの顔面を殴りつけようとする。しかし――
「とりあえず、手足はいらないね」
エリオスがそう言った瞬間、兵士の身体の四点から血が噴き出す。ぼとり、ぼとりと肩から、膝上から四肢が切断され床に落ちた。
「ぇ……あ、ああ……」
兵士は最早叫び声を上げることもできないようで、哀れなまでに震えて、血にまみれた唇から音を漏れ出させるだけだった。
そんな哀れな兵士の髪を掴んだまま、エリオスは立ち上がる。四肢を失った兵士の身体は宙ぶらりんに吊り上げられ、肩や太腿だけになった四肢をささやかに暴れさせることしかできない。
そんな兵士の姿を見て、エリオスは相も変らぬ無邪気な笑顔を浮かべている。
「筋肉だるまがずいぶんと軽くなったねえ。あはは、芋虫みたーい」
「ち、ちくしょう! ちくしょう!」
じたばたと暴れる兵士の姿は、まさしくひっくり返された芋虫のようで哀れさを引き立てる。もはや兵士は悪態を紡ぐことさえ満足にはできないでいる。
そんな彼に満面の笑みを浮かべながら、エリオスはわざとらしく気の毒げな声を上げる。
「いやはや、出来ることなら私も瞬く間に殺してあげたいんだけどねぇ。やっぱり痛めつけられた主人の手前、それなりの厳罰を与えないとね」
そうエリオスが言い終わるが早いか、彼の足元からゆらりと立ち現れた影が、その切先を兵士の眼球へと向ける。
「あ……」
兵士の口から音が溢れるのと、影の槍が兵士の眼球を抉り出したのはほぼ同時だった。
「ぐぁぉあァァァ!?」
兵士の絶叫が、広間に木霊する。その絶叫が口火を切ったように、エリオスの足元に広がる影から、次々に幾本もの黒い槍が現れては、兵士の身体を刻み、抉り、蝕んでいく。
エリオスはそんな彼から手を離し、床に捨てるように転がす。床に捨て置かれた兵士の身体に凄まじい勢いで影の槍が殺到する。その様は、傷ついた芋虫に貪欲な蟻が集るように見えた。
長い断末魔を奏でる兵士を捨て置いて、エリオスはアリキーノの前へと進み出る。
「覚悟したまえよ、アリキーノ子爵。これが君の、君たちの辿る未来だ」
エリオスは楽しげに笑った。




