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Ep.7-79

アルカラゴスの登場により、戦場に新たな局面が訪れようとしているその頃、城壁の向こうではいたるところで黒煙が立ち上り始めていた。

それは、サルマンガルドとリリス、エリシアの対決の影響もあるが、それ以上に城壁の中の街並みを破壊していたのは、ナズグマールとエリオスの戦いだった。

エリオスの足元からは何本もの『憂鬱』の影の槍が飛び出して、ナズグマールの身体を捕らえんとする。また、それに合わせるようにして、彼はその手の先から黒い風――『暴食』の権能を吹き荒れさせる。

その圧倒的な猛攻により、周囲の壮麗な街並みはみるみるうちに瓦礫の山と化していく。

しかし、ナズグマールはそんな惨状の中を、まるで軽くステップを踏むかのようにして、エリオスの攻撃を踊り避ける。

影の槍が頬を掠めても、黒い暴風が身体の横をゼロ距離で駆け抜けても、眼前で大理石の建物がただの無数の石ころに成り果てたとしても――ナズグマールの表情から笑みが消えることは無い。穏やかな、まるで春の野原でも歩くかのようなその生温かな笑みはエリオスの苛立ちを倍加させる。


「――どうしました、エリオス・カルヴェリウス? これでは夜が明けたって私を叩きのめすなんてことはできませんよ? それどころか――」


ナズグマールはそこで言葉を切ると、目の高さにその左手を持ち上げて、足を止める。その瞬間、『暴食』の暴風と『憂鬱』の槍がその身体を食い荒らさんと殺到する。しかし――


「散れ」


その短い一言とともに乾いた音がナズグマールの指先から放たれる。その瞬間、彼の首を目掛けて襲い掛かっていたエリオスの二種の権能は、まるで硬い壁にでも弾かれたかのように高く鋭い音を上げて、あらぬ方向へと吹き飛び、その先で破壊の限りを尽くす。


「――ッ!」


自身のすぐ傍らに弾かれた暴風が直撃し、あわや建物の崩落に巻き込まれかけたエリオスは思わず息を呑みながら、反射的に反対側へと飛び退く。しかし、その飛び退いた先では指向性を失ったいくつもの黒い槍が暴れ狂っていた。

そしてそのうちの一本が、その切先をエリオスに向けて迫ってきた。


「――く、そ……!」


エリオスはひどく表情を歪めながら、魔力を込めた両腕でそれを振り払う。それでも、その勢いと鋭さを完全に殺し切ることは出来ずに、彼の右の掌から血が噴き出る。


「——つぅッ!?」


「隙ありです」


痛みに表情を歪めたエリオスの直ぐ面前に、ふと顔が現れる。白くにんまりとした笑みを浮かべた悪魔の顔。次の瞬間、エリオスは腹部に強く鋭い衝撃を感じた。そしてそれからほんの一瞬ののち、内臓が掻き回されるような痛みも。

自分の腹にナズグマールの黒く尖った靴の先がめり込んでいるのを理解したのは、痛みを感じた次の瞬間、彼の身体が後方へと凄まじい勢いで吹っ飛ばされるのと同時だった。


「——ぐ……かァ!」


食道を駆け登った液体が口の端から溢れるのを感じながら、エリオスは瓦礫の山に背中から叩きつけられる。


「……う、ぐ……くぅ……ぁ」


震える声が血と胃液とともに口の端から溢れでる。立ち上がれず、その場にうつ伏せに崩れ落ちた彼の姿を見て、ナズグマールはくすりと笑い、口元に手を当てる。


「まさか、これで終わりではないですよねぇ? 私はまだ全然楽しめていないのですから」


そう言ってゆっくりと近づいてくるナズグマールを前にして、エリオスはぴくりとも動かずその場に倒れ伏していた。

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