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Ep.7-77

「呑み喰らえ――『晶析せよ(クリスタ―ロ)星の顎(メント)』」


レイチェルは戦場の中心を見つめながら、謳い上げる。

その瞬間、彼女の足元から幾本もの水晶の剣が突き出してくる。それは彼女を頂点とした放物線状に戦場に向けて広がっていく。その剣はまるで壁のように連なって、戦場の兵士たちと彼らを追撃する魔物たちをとり囲む大きな大きな楕円形を描く。それは奇しくも、まるで巨大な獣が大きく口を開けたかのような形だった。

兵士たちは両側方に広がっていくそれに驚きの声を上げながらも、一切速度を緩めず先導するザロアスタに従って駆け抜ける。一方の魔物たちは自分たちの退路が絶たれたという事実に、混乱を来し始める。

その様を、本陣の丘から見つめるレイチェルは、ほうと小さく息を吐くと、聖剣の柄を握りしめたまま、それを支えにしながら、ぐらりとその場に崩れ落ちる。

息が荒い、心臓が破けそうなくらいに脈を打つ。血が沸騰しているかのように熱い。


「――あとはお願いしますよ。ザロアスタ卿」


震える総身を抱きかかえながら、レイチェルは口の端に笑みを浮かべてそう言った。

そんな彼女の視線の先で、彼女の言葉など聞こえるはずもないザロアスタは、ニカッと白い歯をむき出して、本陣に向けて笑って見せる。


「見事――見事、見事なり! 神話の如き荘厳なる星の顎――オオ、レイチェル卿! 貴殿の壮麗なる偉業に我は血みどろの暴虐で応えよう!」


ザロアスタは爽やかさと凄絶さを同居させたような笑みで、大地を鳴らすような声を響かせると、ザロアスタは手綱を強く引いて馬を止めると、騎上から背後についてきた兵士たちを振り返る。その爛々と滾るような瞳の光に、兵士たちは竦んだように足を止める。


「さァ諸君! 敵は混乱の極致にある! 今こそ好機、今こそ勝機!」


ザロアスタの声は兵士たちの身体をびりびりと震わせる。その震えは心すらも震えさせ、昂揚せしめる。

ザロアスタは羽織ったマントを大きく振るい、進行方向を大きく反転させると、剣を抜き叫ぶ。


「——いざァ! 蹂躙せよォォォォ!」


獣の如き咆哮。それに応えるように兵士たちもまた声を上げる。共鳴する叫びは戦場全体の空気を戦慄かせる。

先陣を切るザロアスタに続けて、兵士たちは急反転して退路を失い渾沌の只中に突如叩き落とされた魔物たちへと突っ込んでいく。

そこから先は、まさしくザロアスタの言う通り「蹂躙」という言葉こそが相応しい光景が演じられた。

もとより高い知能を持つわけでもない魔王軍の尖兵たちは、あってないようなものだった統率をいよいよ完全に失う。ある者は連携も忘れて敵に襲い掛かり、ある者は退路を塞いだ水晶の壁を崩そうと、無闇矢鱈に武器や爪を打ち付ける。

しかし、そのいずれも無意味。

ザロアスタの号令の下、統率を保った兵士たちは着実に一体一体魔物たちを屠る。レイチェルの展開する水晶の壁も、聖剣の権能の一端である以上、魔物の雑兵如きの攻撃で崩れるはずもない。

みるみるうちに、壁の内側の魔物たちは肉塊へと姿を変えていった。

そして壁の展開からものの十分としないうちに、戦場には聖教国軍の鬨の声が響いた。

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