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Ep.7-68

「神の呪いの……破却?」


「滑稽だと笑うなら笑えばいいとも。真性の不死者と宣い威嚇しておきながら、誰よりも僕自身が自分を不死たらしめるモノを厭うているんだからな」


サルマンガルドはそう言ってくつくつと自虐的に喉奥で笑う。しかしエリシアもリリスもそれに同調する気には微塵もならなかった。

気まずい沈黙の中、エリシアが問いかける。


「一つ、追加で聞いてもいいかな。サルマンガルド卿、君は何故不死を厭う?」


エリシアは眉間に皺を寄せ神妙な顔をしながらそう尋ねる。その声は普段の彼女の口調からは想像もし得ないほどに低く、冷たかった。


「ここまでの話の中で、君がその呪いを忌んでいることは分かりきっていた。でも『不死』だよ? しかも最高神がかけた呪いによる不死——不滅の神の不滅の呪いは、君が言った通りその身に真性の不死性を与えたはずだ。古今東西現世に生きるありとあらゆる存在が希求し、それでいて到達し得ない奇跡だ。それを何故、君は放棄しようとする?」


「分かりきったことを問うのは賢い者の振る舞いではない——だが、それが常に愚者のそれかといえば、そうとも限らない」


サルマンガルドはそういうと、両手を高く上げる。するりと落ちるローブの袖、その口から不釣り合いな両腕が覗く。サルマンガルドはその両手でそっとローブのフードを持ち上げる。


「——ッ!」


露わになったその顔にエリシアもリリスも揃って息を呑む。目元は仮面で隠されているが、それでも分かるほどにサルマンガルドの顔は歪だった。それは醜いという言葉では的を外してしまうような——美醜という基準をはるかに飛び越えて、彼のその容姿は歪んでいたのだ。


「——つぎはぎ……」


リリスはぽつりと、先程サルマンガルドが漏らしていた言葉を復唱する。

頭部の三分の一を覆う黒髪と残部を覆うくすんだ色の金髪。仮面で隠れていない顔の下半分は、それぞれ色の違う肌が三種、継ぎ目がはっきりとわかる形で貼り合わされている。


「——今のこの顔は、確か6人の人間の顔を使って作ったのだったかな。いや、中の肉を合わせればもう少しか?」


悠長にそんなことを言いながら、サルマンガルドはさらにその手を自身のローブの胸元に運ぶ。一つ一つ丁寧にボタンを外し上半身のローブをはだけると、露わになったシミだらけのシャツも動揺にはだける。

その指の動きをエリシアもリリスも嫌悪感や忌避感を抱くことすらなく、目を離せないままに見つめていた。


「どうかな」


そう言ったサルマンガルドの露わになった上半身。それはまるで多くの、雑多な種類の人間や魔物、動物の身体を雑然と切って無作為に一つの体として繋ぎ合わせたようだった。


「分かるか。これが僕がこの呪いを——このありがたい不死をかなぐり捨てたいと望む理由だよ」


そう言ってサルマンガルドは冷ややかな声で笑った。

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