Ep.7-65
「その通り、ですわ」
リリスはエリシアの答えに、ふかく一つだけうなずく。
「この世界において、唯一不滅とされる存在――あるいは概念。不死だなんていう自然の絶対の理を曲げるほどの力を持つ、絶対を超える超越者。そんなものがあるとするのなら、それは『神』以外にはあり得ない。それもただの神性ではその域には至ることはできないでしょう――だとするのなら」
視線をサルマンガルドに戻す。答え合わせを求めるような彼女の視線に、サルマンガルドは肩を震わせた。
「く、はは……はははははは! 素晴らしい、よくぞ……よくぞその答えに至ったな魔術師――嗚呼、お前名はなんと言ったか」
サルマンガルドは仮面の奥の目を爛々と、嬉々として輝かせながらリリスに問いかける。ここまでの対峙の中で、彼がここまで感情を高ぶらせることが今まであっただろうか。
リリスの名前を問うサルマンガルド。エリシアは、今この瞬間ようやく、ここに来て初めて彼が自分たちをしっかりと見たような気がした。リリスはサルマンガルドを注意深く見つめながら、慎重げに口を開く。
「リリス、リリス・アルカディスですわ」
「リリス・アルカディス――そうか、その名、僕は確かに覚えておこう。お前はそれに値する知恵者のようだからな」
「真正の不死者と豪語する方に名を覚えられるなんて、ぞっとしませんわね」
リリスが皮肉っぽくそう吐き捨てる。そんな彼女の態度さえも、サルマンガルドは愉しげに、喉の奥でくつくつと笑って見せる。
それからリリスは目を細めてサルマンガルドを見据えると、再び口を開く。
「貴方は――神の呪いを受けた。そうなのですね? そして貴方に呪いをかけた神の名は――」
リリスはそこで言葉を切り、窺うような視線でサルマンガルドを見つめる。そんな彼女の態度をサルマンガルドは鼻で笑いながら肩をすくめる。
「リリス・アルカディス、つまらないことをしてくれるな。僕はお前の知を評価しているんだ。最後の答えはしっかりと自分の口で紡げ。僕は美味しいところをかっさらうような、はしたない真似はしたくはないからな」
サルマンガルドのその言葉に、リリスは唇を震わせる。自分の導き出した答えに自信がないわけではない。だが、その答えを、その名を口にすること自体が憚られて、恐ろしくて。
それでもリリスはサルマンガルドの真っ直ぐな目線を受けて、答えを紡ぎ出す。
「アヴェスト神話群においては多くの神が登場する。炎を司るヴァイスト、植物を司るアメルタート、鉱物を司るシャスール、水を司るハルヴァタート、正義と法を司るマナフ、英雄から神へと成り上がったエイデス。皆、強力な権能を持つものとして謳われていますが、それでも生死両界を隔てる理に手を掛けられる者は一柱しかありえません。神々は彼の権能を委託され代行するに過ぎず、世界の全てを司るとされる神性——」
リリスの言葉に、エリシアは彼女が提示する答えを、サルマンガルドに不死の呪いをかけたのが誰なのかを理解して、表情を引き攣らせる。
「名をスペント・マユ——天帝、最高神と呼称されるアヴェスト神話群における原初にして最高の神性。それが貴方を不死たらしめる者、ですわね」




