Ep.7-64
「く、ははは……然り、然り、然り――!」
らしくもなく、熱のこもった声でわずかに笑いを零しながらサルマンガルドはリリスの言葉を肯定する。そのどこか狂ったような調子の声に、エリシアもリリスも思わず身構える。そんな彼女たちを気に留める様子もなく、サルマンガルドは口を開く。
「そうか、そうか……なるほど、そこまで辿り着いたか魔術師。やはりそれなりの知恵者だとは思っていたが……」
どこか愉しげな声で、感情を反芻するようにサルマンガルドは頷きを繰り返す。
「不死の呪い——ひとつの存在から、終局という万物に等しく与えられるべき安寧を奪い去る。命に終わりが必ずある以上、その絶対的な理を上書いて、その存在を存続させ続けるモノがあるとしたら、それはもはや呪いとしか言いようがありませんわ」
リリスの言葉は冷たく、それでいてどこか憐れみに濡れていた。一方、アリシアの方はサルマンガルドに向けて聖剣を構えつつも、リリスの言葉に耳を傾けながら怪訝な表情を浮かべる。
それというのも、エリシアはかつて勇者という肩書きを与えられるに際して受けたユーラリアやザロアスタによる教育の中で『呪い』というものについて学んだことがあった。
無論エリシアは魔術師ではないから、その深奥についてまで学んだわけではない。だが、それでももっとも重要なことは教わっていた。それは如何にすれば呪いは解けるのか。魔術理論的には解呪にはさまざまなアプローチが存在する。だが、魔術師でないエリシアが教わったのは、最も単純な解呪方法。すなわち——
「でも、呪いによる不死だとしても、終わりはあるはずじゃないの? だって呪いは術者が死ねば解けるんだから……」
そう、もっとも単純な呪いの解き方は術者が死ぬこと。呪いはあくまでも一種の魔術であり、それを維持するには術者の魔力が継続的に補給されることが必要なのだ。
即ち、たとえ不死の呪いが存在したとしても、その効果期間は術者の寿命に、すなわちその生命に依存する。そういう意味では、やはり呪いによる不死もまた「真正の」不死ではあり得ない。
エリシアのそんな疑問をリリスはこくりと頷いて肯定する。
「その通りですわ。呪いもまた永遠不滅ではない。定命の者、死のある者によってかけられた呪いには終わりが存在する。ですが、私はそこで少し考え方を変えてみたのです」
その言葉にサルマンガルドの身体がぴくりと反応した。それを横目に認めながら、リリスはさらに続ける。
「終わりを持つ者による呪いに必ず終わりがある。ならば、何にかけられた呪いなら解けることは無くなるのでしょう」
「——終わりを持たない者、死も消滅もあり得ない者……そういう者にかけられた呪いなら、永遠に呪いは持続する……?」
「その通りですわ。ではエリシア、一体なんだと思います? そんな芸当ができる存在がいるとするならば」
その問いかけにエリシアは答えに窮する。
見当がつかないわけではない。だが、その答えを口にすること、それ自体が躊躇われる。
それでも、今まで出てきた情報は全てある存在を指し示している。
死や消滅といったあらゆる存在が有する終焉という運命を蹂躙する呪い、そんなものをかけられる強力な慮外の力を持つ者。それでいて、消滅することも死ぬこともない存在。そんな者が存在するのなら、それを表現する言葉はひとつだけ。
「神様——以外に、ありえない」




