Ep.7-63
「僕が何者か……?」
投げかけられた問いにサルマンガルドは僅かに考え込み、口元に繋いだばかりの右手を運ぶ。そして不意に小さく自嘲的な笑いを零しながら小首を傾げて見せた。
「考え方は色々とあるだろう――だが、あえて君たちが最も求めるであろう答えを与えるとするのならば、僕は真正の不死者だ」
「真正……?」
サルマンガルドの言葉にエリシアは意味を測りかねるというように復唱する。一方で、リリスはその身体を一瞬びくりと震わせて、彼を凝視して次の言葉を待つ。サルマンガルドはそんな彼女たちの反応をうっすら満足げに確かめると、両腕を大きく広げる。
だぼついたローブは彼が腕を拡げるとするりと下がり落ちて、布の奥の腕の全容を露わにする。
先ほど屍から奪い取り、繋げられた右腕は筋骨隆々の男性のもの。太く、筋肉の隆起や節くれが強調された力強いもの。対して、左腕はまるで高貴な貴族の女性のもののように白く滑らかで細い。爪の整えられ方、すらりと伸びた白魚のような指。右腕のそれとは対極に位置するような見た目の左腕は、美しくありながらそのミスマッチ加減の所為でひどく不気味に見えた。
「――パッチワークのよう、ですわね」
リリスがそう呟くと、サルマンガルドは愉快とも不愉快ともとれるような声で冷笑する。
「いいように言ってくれるじゃないか。だが、僕としては『継ぎはぎ』とか『寄せ集め』の方がよっぽどしっくりくるがね」
そう言うとサルマンガルドは腕を元に戻して再びそのアンバランスな両腕をローブの袖の中へと隠す。そして小さく鼻を鳴らしながら言葉を続ける。
「『真正』――とはどういう意味かと疑問に思っているのだろう? だが、言葉以上文字以上に含むところなどありはしない。僕は他の不出来で不完全で中途半端な不死者とは違う、そう言えば理解できるだろう魔術師」
「不死者――その言葉で表現される存在や伝承は多々ありますわね。でも、そのいずれであっても言葉通り本当に死のない存在ではあり得ません。吸血種のような超長命の不老種であっても、手順に則れば殺害は可能。一度死を迎えた霊体も神聖魔術による浄化でこの現世から消滅させ一種の死を与えられる。死霊術によるリッチのような死体を用いたアンデッドもまた然り。私たちが知る不死者の中に死や消滅という結末を持たない者は存在しません。どんな形であれ、命によって生かされている存在であるのなら必ず終わりはどこかに存在する」
リリスは訥々と言葉を紡ぐ。それはサルマンガルドの問いかけに応えるようでもあり、彼女自身が答えを見つけ出すために脳内のあらゆる知見を辿る巡礼のようでもあった。
サルマンガルドはリリスの言葉に満足げな息を漏らし、それから問いかける。
「では、僕はなんだ。魔術師よ」
その短い問いに、思考の巡礼を終えたリリスは、目線を上げてサルマンガルドを見据えて口を開く。
「貴方を生かすモノ——命ならざるそれをあえて言葉にするのなら……呪い、ですわね」




