表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
616/638

Ep.7-61

連載再開します。

黒煙が立ち上る。

振り下ろされた聖剣は確かにサルマンガルドの肉体を捉えていた。手ごたえもあった。

だというのに、エリシアは漠然とした不安感を抱いていた。まるで、水の張った器の中に、黒くどろどろとした石油を注ぎ込まれたような、そんな感覚。

エリシアは即座に飛びのいて、黒煙から距離をとって目を細める。


「――エリシア?」


リリスは杖を構えたまま、エリシアの名を呼んだ。エリシアはそんな彼女にちらと視線を向けてから、口の端を吊り上げる。


「なんだろうね――この感触」


自虐めいた笑みを浮かべたまま、エリシアはそう呟く。

叩き込んだ剣は確かに肉を裂き骨を砕いたはずだった。柄に響いた感触から、それは確信を持てていた。だが、剣を通じて感じるはずの生きた筋肉の蠢動も、噴き出る血の奔流も感じられない。まるで、屠殺された豚の吊るされた肉を切り裂いたような感覚だった。その気持ち悪さに、エリシアは強い違和感を覚えていた。


「――ッ!」


黒煙が晴れる。

そしてあらわになったサルマンガルドの姿を見て、エリシアとリリスは思わず絶句する。


「嗚呼、ひどいな。この腕とは長い付き合いだったんだが。ざっと五十年は下らないか……まあいいがな」


サルマンガルドはそこに泰然とした様子で立っていた。

エリシアの剣戟を受け止めたように右腕を前に突き出しながら。だが、当然ながらその腕が無事であるはずもない。聖剣の炎とエリシアの鋭い斬撃、それらが絶妙なる極致にて合一する一撃を受けた彼の腕は、縦に真っ二つに裂けひしゃげたうえに真っ黒に炭化していた。その凄惨さに思わずリリスでさえも息を呑んでいた。

しかし、異常なのはそれをまるで路肩の雑草が枯れ行くのを見るかのような、どうでもよさそうな目で見ていたことだった。


「これ以上燃え広がっても面倒だ。落とすか」


呟くようにサルマンガルドがそう言うと、不意に一陣の風が吹いて、それとほとんど同時に彼のぐちゃぐちゃになった腕が、彼の身体を離れて宙を浮く。そして次の瞬間、それはぼとりと鈍い音を立てて地面に落ち、そしてぐしゃりと崩れた。

しかし、エリシアたちの目はその落ちた腕ではなく、風の刃に切り落とされた腕の付け根に注がれていた。肩口から先、切り落とされた断面――まともな人間であれば、そこから血が噴き出るはずなのに、そこにはしなびた肉と黄ばんだ骨が覗いているだけだった。

サルマンガルドは唖然とした表情のエリシアとリリスをよそに、ぱちんと指を鳴らす。

すると彼の前方、エリシアたちとの間で地面がぐらりと揺らぐ。そして次の瞬間、そこから数体の屍が立ち現れる。


「ふむ——この腕がいいな」


そう呟くのとほとんど同時にサルマンガルドは懐から大ぶりの肉切ナイフを取り出すと、目の前に立つ屍の一つに手をかけて、肩口からその右腕を切り落とす。

腕を失いバランスを崩してその場に倒れる屍をよそに、サルマンガルドはその切り落とした右腕を自分の肩口のしなびた断面に押し当てた。

すると、その接合部がふいにじゅくじゅくと蠢動し、次の瞬間には見事なまでまに結合していた。まるで熱された二本の蝋燭が融け絡み合うように。ひとつの肉体として成立する。

サルマンガルドはそれを満足そうに見つめる。

そして繋げた腕の先の指を艶かしく動かしながら口を開く。


「さて、次はどうくるのかな? 是非とも僕に見せてくれ」

本当は昨日のうちに投稿する予定だったのですが、シンプルに寝落ちしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ