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Ep.7-59

「――あ?」


ナズグマールの言葉にエリオスは思わずガラの悪い声を漏らすように発した。それからすぐにエリオスは咳払いをして取り繕うと、改めてナズグマールのにやにやとした顔を冷たい目で睨みつける。


「口の利き方がずいぶんと変わったじゃないかナズグマール。私が臆病者? 負け犬?」


「おや、違いますか? それとも負けっぱなしを良しとする敗北主義者の方が的を射ていましたかね」


ナズグマールの衰えることのない口撃に、エリオスは小さく舌打ちをするが、特に反論はしなかった。それが相手の言葉に理があったからなのか、それとも様子を伺っているのかは一瞥しただけでは判断がつかない。

ナズグマールはゆったりと両腕を拡げながら、ゆるゆるとした足取りでエリオスに向かって近づいてくる。


「――私は残念ですよエリオス様。大局だの相性だの、自身の敗北主義を賢しげな言葉で覆い隠して自らを正当化するだなんて。自分の目的や欲求のためならば、あらゆる事項をそれに劣後させるのが『悪役』というものでしょう? 自分の保身も、何もかもをかなぐり捨てて。貴方はそういうものだと思っていたのですがねえ……」


ナズグマールはやれやれと言いたげにゆるゆるとかぶりを振る。

その伏せた目からは、侮蔑と嘲笑の光があふれ出ていた。そんな彼を見て、エリオスは怒りをあらわにする――そう思われたが。


「く、あは。アハハハハ!」


不意に高い笑い声が街路に響いた。

顔を押さえながら、天を仰ぎ、エリオスは甲高い声を上げて笑う。その様に、ナズグマールは初めてその不敵な笑みを顔面から消して、怪訝そうな表情を浮かべる。

エリオスはひとしきり笑うと、そんな彼に向かって口の端を吊り上げながら微笑みかける。


「――ずいぶんと見透かすようなことを言うから少し焦ったけれど……なあんだ」


「なにか?」


堪えきれないという風に。くつくつと喉の奥で笑う声を漏らすエリオスに、ナズグマールは眉間にしわを寄せて問いかける。

そんな彼に、エリオスは小首を傾げるようにして、上目遣いにその歪んだ表情を愉し気に見つめる。


「そっか……ふふ、君たちの理解ってそんなものだったんだ。く、あははははは」


「何を言っているのです。貴方は……」


「単純な話だ。君も、君たちも、全く私の行動の根本にあるものを理解していない。それを確認出来て安心しただけの話だよ」


そう言ってエリオスは指をぱちんと鳴らす。その瞬間、彼の足元の影がどくんと脈打つように揺れる。次の瞬間、墨を流したように広がる影がナズグマールに迫る。ナズグマールはそれをひらりとよけて後方へと飛び退いた。

そんな彼をにんまりした笑顔で見遣りながら、エリオスは口を開く。


「これで安心して、舐めた口を利いた君を叩きのめせるよ」

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