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Ep.7-58

ナズグマールの言葉に、エリオスはびくりと全身を震わせて驚いたような表情を浮かべてから、すぐにその表情を険しくして彼を睨みつける。必死で押さえつけようとしているが、その顔には侮辱されたことへの怒りの色がにじんでいた。そんなエリオスを見ながら、ナズグマールは再び好青年然とした笑顔を取り戻して、軽く小首を傾げて見せる。


「主人を傷付けられたという理由で一国を滅ぼした貴方が、どうしてその身を土に汚させた相手を目の前にしておきながら、そちらへと是が非でも向かわずに私のような小者の相手をしようと残っているのでしょうねえ。ええ、私にはそれがとても不思議なのです」


「――別に。君をさっさと倒してから、モルゴースを殴りに行けばそれで十分だから。あとは相性の問題」


モルゴースと自身の相性が致命的に悪いことは、先の戦闘でも明らかだった。聖剣による大罪の権能の無効化。そして戦闘のセンスの差や、置かれている状況。

それらを総括して考えれば、ここは自分がモルゴースの相手をするのは悪手であると考えた。それをするくらいならば、シャールとユーラリアたちを先にモルゴースと戦わせておけばいい。戦いが終わるまでにその場に辿り着ければ、自分の目的は達せられるのだから。

そんなエリオスの思考を読んだかのように、人を食ったような笑みを浮かべてナズグマールは笑う。


「本当にそうお思いで? 本当にそれで溜飲が下がるのですか。いやいやいやいや、貴方の屈辱はそんなことでは雪げない。他の者たちの手が入った状態で我が主を殺したとて、そこにいかなる快悦がありましょうか。貴方の敗北は帳消しになどなりえないでしょうに」


ナズグマールの言葉にエリオスは顔を顰めながら、噛み締めた歯の隙間から零すように応える。


「私だって大局を見て動くこともある。大局を見て……それで今回は彼らに譲った」


そこに間違いも偽りもない。

あるとするならば——


「ン、そのようなつまらないお為ごかしを、貴方もされるのですねぇ。貴方ともあろうお方が——」


「御託はいいよ。言いたいことがあるのならはっきり言いなよ。その気持ち悪い喋り方もやめて、思ってることをすっぱりとさ」


エリオスはどこか苛立った様子でそう吐き捨てた。その言葉に、ナズグマールは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐににんまりと口の端を吊り上げてみせる。


「言いたいこと、思っていること——ですか。それでは申し上げましょう」


ナズグマールは口元に手を当てる。それはまるで笑いを押し殺すように。

細めていた目を見開く。まるで滑稽なものを目に焼き付けんとするように。


「臆病者の負け犬風情が『悪役』などとは——よくほざいたものですねぇ……と」

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