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Ep.7-53

「――そう、ですね」


ユーラリアはエリオスの問いかけを聞いて、わずかに言葉に詰まる。それからあたりをちらりと見渡してから、彼女はため息交じりに口を開く。


「私たちはすぐにでも魔王の下に辿り着かなくてはならない――それが理由ですよ。分かっているのでしょう」


「まあね。でも、やっぱり君の戦略意図を確認しておくのは必要だろう? いっときとは言え、私は君の指揮に服すると決めた身だからね。そこは踏まえたうえで行動しなくては」


二人の間だけで会話が進んでいくのを、シャールはどこか次元レベルの透明な壁に阻まれているかのような気分で見ていた。そんな彼女の呆けた顔に気が付いたのか、エリオスは苦笑を浮かべながらシャールの顔を覗き込んだ。


「どうしたのかなシャール。まるで人ごみの中ではぐれた幼児みたいな顔をしているじゃあないか」


「幼児は余計です……でも、確かにちょっと置いてきぼり感は否めないです」


正直にそう答えるシャールに、エリオスはにんまりと笑って見せる。そんな彼の笑顔に不服そうな表情を浮かべつつも彼に自分が抱えたままになっている疑問の答えを目で求める。そんな彼女の表情に応えるようにエリオスはついと右手を伸ばして、ある一点を指す。

彼の指さす先――そこにはアコール城の黒く巨大な尖塔がそびえ立っていた。一瞬、シャールは彼が何を言いたいのか、その意図を量りかねる。しかし、ふと聖剣に手を伸ばした瞬間、シャールは彼の意図するものを理解した。

黒い尖塔だけでなく、あの魔王の城全体にすさまじい魔力が渦巻いていた。否、正確に言えば、おそらくあの城の内部のある一点を中心として、そこから抑えきれない魔力があふれ出ているというべきなのだろうか。

城の中枢から禍々しいまでに圧縮された濃密な魔力が見えた。聖剣の力に触れたことで、感覚が鋭敏になったがゆえにそう感じたのかもしれないが、シャールは唐突に突き付けられたその凶悪な魔力の渦を前に、心臓や肺をぐいとすさまじい力で押しつぶされたかのような感覚を覚え胸元を押さえて息を荒くした。


「あれ、は……?」


「魔王モルゴース、でしょうね」


「え――」


ユーラリアの言葉に、シャールは思わず息を呑んだ。

あれがモルゴースの魔力だと? そんなはずはない、シャールは数度あの魔王の姿を見ているし戦う姿も見ている。あの時見たモルゴースはここまですさまじい魔力を帯びてなどいなかったはずだ。そんな彼女の疑問と困惑をユーラリアは首肯する。


「驚くのも当然です。私だって驚いているのですから――あそこに鎮座する存在の異様さに」


「魔力の量も質も、これまで刃を交えたときと大きく異なっている――嗚呼、こんなの……ふふ、それこそまるで……」


魔術師でもある二人は、互いにアコール城を見つめながら含むようにつぶやく。

そんな彼らの姿を見ながら、シャールは困惑を抱えたまま立ちすくんだ。


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