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Ep.7-52

「ちなみに聞くけどさ。サルマンガルドが脅威たりえないというのなら、全員でかかればよかったんじゃないの? なんであの二人に任せたのかな」


再び速度を上げて駆け始めたユーラリアにエリオスはそう問いかけた。再び息を切らせはじめたユーラリアはそんなタイミングで問いかけてきたエリオスにむけて唇を尖らせながら、不機嫌そうな目を向ける。

それでもユーラリアは、エリオスの問いに対して何とか呼吸を落ち着かせながら右の手の指を一本建てて応える。


「……理由は二つです。まず一つは、サルマンガルドを相手にするのなら、多人数で戦うのは不合理だからです」


「――ふん」


その回答にエリオスは片眉を上げる。その表情は意外というよりも、どこか我が意を得たりというような感情がにじんで見えた。

そんな彼に目を細めながら、ユーラリアはさらに続ける。


「戦慣れしていないとは言いましたが、サルマンガルドの魔力がすさまじいのは如何ともしがたい事実です。いうなれば彼は大量破壊殺戮兵器、あの極大消除魔術や広範囲の破壊魔術を連発されてしまえば流石に手に負えない。そんな相手に全員で当たっても、むやみに生じ得る損害を増大させるだけです」


確かに、さして広くもないあの街路で五人がそれぞれに攻撃したところで、十全な効果があがるとも思えない。それどころか、互いの動きを阻害して行動を鈍らせ、広範囲の破壊魔術に巻き込まれるリスクをただ引き上げることにもつながりかねない。

それに、戦慣れしていないサルマンガルドからすれば、五人もの敵に囲まれたならそれを煩わしく思って、周囲一帯を破壊しつくすような魔術を使うかもしれない。そうなれば、瓦礫に隠れたりなどという搦手で彼に迫るどころの話ではなくなる。彼と相対する敵を絞るのは、彼にそんな戦闘方針を抱かせないようにする意図もあるのかもしれない。

続けてユーラリアは右の手の二本目の指を立てる。


「もう一つの理由は、サルマンガルドにそこまでの時間をかけるわけにはいかないということです。だから、最も彼に相性のいい人材を、最小限それでいて彼に確実に勝ちうるような配置をした」


「相性……?」


シャールは思わずユーラリアの言葉を復唱する。そんな彼女の言葉にユーラリアは落ち着いてきた声音で応える。


「まずエリシアですが、死霊術師にして不死者でもあるサルマンガルド、死体と腐敗、そして呪詛――ある種の不浄を司るがごとき存在である彼には、その不浄を焼き清める『焼浄』の理を持つ彼女の聖剣ヴァイストこそが相対するにはふさわしいと思いました。それに何より彼女はすばしっこいですから」


なるほど、彼女の言う通りだとシャールは納得する。それに加えて、もしサルマンガルドが自身の率いる不死者の軍勢をあの場に召喚したときに、それを一掃できるのは聖剣の中でいうのなら、その性質上ヴァイストくらいのものだろう。あの大火力の前では、どれだけの不死者の軍勢を率いたとしても、寡兵という評価を免れ得ないだろう


「ですが、エリシアだけではサルマンガルドの多彩な魔術には応じきれないでしょう。ですから、魔術に秀でたリリスがその対応に当たるのです。やはり、規格外の魔術師たる彼には、同じく規格外の魔術師を当てなくては――彼女ならサルマンガルドの使う魔術を分析して、それを適切に捌いてくれることでしょう」


そこまで言うと、ユーラリアは再びちらと後方を振り返る。既に見えなくなった彼女たちの戦場の方からは、焔の轟音や破壊音、金属音が鳴り響いき戦の激しさをこちらまで伝えてくる。


「たしかに余裕の完勝、とはいかないでしょう。ですが、私は彼女たちなら間違いなく勝てる――そう信じています」


そう言ってにんまりと笑うユーラリアに、シャールは心強さを感じた。しかし、その横からエリオスがためいきまじりに口を挟む。


「ご高説どうも……確かにカードとしてサルマンガルドに彼女たちを当てるのは賛成だ。でも私が知りたいのはそこじゃない。どうして君がサルマンガルドだけに時間をかけていられないと思ったのか――君のその判断の根拠を知っておきたい。このあとも私の行動にも関わるからね」

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