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Ep.7-52

背後から聞こえる剣戟と破裂音を振り返ることなく聞きながら、シャールたちは街路を駆け抜ける。

ここまでの道のりから、居住区域として使われている市街地には隠密度の高い罠が仕掛けられている可能性はほとんどないと考えた彼らは、一刻も早く魔王の下へと到達するべく走っていくことを決めた。

そんな中、シャールは息を切らせながら問いかける。


「――最高巫司様、あの二人を残してきてよかったんですか?」


「というと?」


ユーラリアは振り返ることなく、シャールに問い返した。

走る彼女の姿は、どこか慣れていないような感じが見受けられて、シャールの問いかけにも息を切らせながら短く反応を返すだけだ。そんなユーラリアの姿に、いままでにないほどに人間らしさを感じつつも、シャールはもう一度問いを重ねる。


「サルマンガルドの魔術は強力でした。エリシアとリリス様の力を疑うわけではないですけれど……それでも、やはり少し不安で」


「確かに……サルマンガルドは驚異的な力を持つ魔術師です。ですが、彼の脅威度はそこまで高くありませんから」


ユーラリアはアーマードレスの裾を持ち上げながら、足をもたつかせつつ走る。

そんなユーラリアのシャールの問いかけへの返答に、エリオスが片眉を上げながら問いを重ねる。


「脅威度が高くないって……本気で言ってる?」


「本気ですよ。彼の魔力や魔術の技量は確かに凄まじいですが、戦闘にそれが必ずしも役に立つかといえばそれは否です。例えば彼が放ったあの極大消除呪文」


ユーラリアはもはや開き直ったように速度を落として、呼吸を落ち着かせながら話し始める。それに合わせるようにシャールたちも駆け足は維持する。

ひとしきり鼓動を押し鎮めると、ユーラリアはさらに言葉を続ける。


「——自分の実力を知らしめるためとは言え、あんなものを街中で放てば周囲の建物の崩落が起きかねない、というのは分かりますよね。例えば貴方が防御に使ったのが異空間を開く権能ではなく、魔術を受け流す類の防御術であったら。あるいは、何らかの弾みで手元が狂ったら、とか。そうなれば、瓦礫や粉塵で視界が遮られやすくなり、不意打ちを喰らいかねない。せっかく逃げ場のない街路での戦いだったというのに」


確かにそう言われてみればそうかもしれない。

そもそも、無尽蔵といっても差し支えないほどの魔力があるとはいえ、その魔力量はやはり有限のはず。だというのに、あんな大出力の魔術をたかだか五人のために使うというのもおかしな話だ。

力量を見せつけたいだけならば、もっと別の魔術でもよかったのに。

不意に背後から爆音が響く。


「つまるところ、彼は戦闘慣れしていない。根っからの引きこもりの研究者タイプ、ですね」


そう言いながらユーラリアはちらと後方を振り返りながら口の端を吊り上げる。


「たとえ潜在的な力が凄まじくとも、その使い方を知らないような者に私の選んだ勇者様は負けたりしませんよ」

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