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Ep.7-51

「――ッ! やってくれたな……」


土ぼこり立ち上る中から、吹き飛ばされたサルマンガルドは低い声で呟くように言った。見た目には傷もなく、変化もないけれど、その語気には隠しがたい苛立ちと怒りが滲んでいた。

シャールたちを見送ったエリシアは、ちらと視線を彼に戻して不敵に笑う。


「視野が狭い自分を恨みなよ。魔術師さん」


「嗚呼、なんとも腹立たしいな。まさかこの僕をお前たちたった二人で抑えられるとでも思っているのか……?」


そんな彼の言葉にエリシアは吹き出す。そんな彼女の反応はサルマンガルドにとっては予想外だったらしく、怪訝そうに鼻を鳴らす。さも「何がおかしい」と言いたげに。

そんな彼の内心を計ってか、エリシアはゆるゆると首を横に振る。


「君さあ、とんだ勘違いをしてるね――『立った二人で抑えられるとでも』? 違う違う、君はボクたち二人で抑えてこの場にとどめるんじゃない。君はボクたちたった二人が倒すのさ。完膚なきまでに」


「――侮辱もここまでくると感情の起伏すら生まれない。実力差が見えていないのか? 僕の魔術の技量はさっき見せてやっただろうに」


サルマンガルドは、干からびたような手をローブから覗かせるとその手の先に魔力を練り上げる。

そこから漂う圧は、離れた距離にいるエリシアの内臓を握りつぶすようなプレッシャーを感じさせるほどにすさまじい。魔術の素養の薄いエリシアですらそうなのだから、魔術に精通するリリスにかかるプレッシャーはそれ以上だろう。

しかし、エリシアもリリスもそんな彼に向けて、軽く微笑んで見せる。


「ええ、貴方の魔術の技量はよく分かっていますわ。その無尽蔵の魔力量と魔術行使のキャパシティ、そしてその知識や技術――すべてにおいて、貴方は歴史上類を見ない最高の魔術師でしょうね。でも……」


「……でも、君はあくまで魔術師だ。どこまでいってもね。死霊術師として不死者の軍勢を操る軍師的な力もあるのかもしれないけど、あくまでそこまでさ」


二人の言葉に、サルマンガルドが歯噛みする音が聞こえた。サルマンガルドは手の先に集めた魔力を、巨大な炎の球に変化させてエリシアに向けて軽く投げつける。

それは彼にとっては、集めた魔力を手に余らせたがゆえの、腹立ちまぎれのポイ捨てのような処理にすぎなかったのだろうが、それは常人からすれば絶体絶命の攻撃となるような代物だろう。

轟音を上げる炎の塊は、その超高温を示すように青白く燃え盛り空を切りながらエリシアに迫って来る。

しかしエリシアは身の丈ほどの直径の巨大な青い火球を前にしても平然としながら、それをヴァイストで切り裂く。その瞬間、サルマンガルドが放った火球はヴァイストに吸い込まれるように消滅した。

そんな様を黙って見つめていたサルマンガルドに向けて、エリシアは嘲笑うように口の端を吊り上げる。


「――君は史上最高の魔術師で、死霊術師で、軍団指揮者なのかもしれない。でも、そこまでなのさ。だって、君は戦士ではないのだからね」

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