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Ep.3-15

「遅れてすまないね、アリア」


黒い風が夜の闇に消えた後、そこにはぼろぼろの身体のアリアを庇うように、エリオスが立っていた。そんなエリオスをアリアは見上げながら皮肉っぽい笑みを浮かべる。


「――登場の仕方としては73点ってとこかしら」


「あはは、何その微妙な点数。そういうアリアも、だいぶ色気が増したんじゃない?」


目を合わせた二人は、互いに皮肉の応酬を交わしながらにやりと笑って見せる。そんな二人の様子を見て、シャールは小さく安堵の息を漏らした。

対するアリキーノたちは、その表情を硬くしたまま動かない。


「さて、この無粋なアクサセリーは外してよろしいかな? マイフェアレディ」


「――確認する必要ある? 早く外して。重いし痛いし挙句ダサいから最悪なのよ」


小さく舌打ちしたアリアに、苦笑いを零しながらエリオスはその場にしゃがみこんで彼女の右手に付けられた枷の継ぎ目を指でなぞる。すると、枷がからりと音を立てて外れた。


「な――」


アリキーノたちの表情が驚愕の色に染まる。アリアはそれをさも当然のことと言わんばかりに、左手、右足、左足とエリオスの目の前に突き出して枷を外させる。その姿は、どこか執事が主人である姫の朝の身づくろいを手伝う様のようで、この殺伐とした状況とのあまりのミスマッチが不気味さすら漂わせていた。


「――はい、外れましたよマイフェアレディ」


「ん。今私立てないから、私を守りながら彼らをどうにかして」


床に膝をついたまま、ツンとした表情でアリアはそう言ってのける。わがままな令嬢のようなその姿にエリオスは心底面倒そうな表情を浮かべて、ぼやくように零す。


「ええ、少しぐらい頑張ってほしいんだけど」


「誰かさんが遅れた所為でこうなってるのよ。責任取ってちょうだいな」


「嗚呼、それを言われると弱いなあ」


くつくつと喉の奥で笑いながらエリオスは頭を掻いた。そして、小さくため息を吐いてから、彼はゆらりとアリキーノたちの方を振り返る。


「――さて、ずいぶんと人の館で好き放題してくれたみたいだね」


「貴方が、エリオス・カルヴェリウス? 聞いてはいましたが、ずいぶんとお若いですねえ。今の今まで一体どちらにいらっしゃったんです?」


いつの間にかアリキーノの表情からは焦りや驚愕の色が消えていた。相変わらずのニタニタとした笑みと爬虫類的な眼光をエリオスに向けている。

そんな彼の問いかけに、エリオスはわざとらしく肩を竦めてみせる。


「――少々身繕いを、ね。君たちがとんでもない時間に訪問してくるから、身繕いに時間がかかってしまってね――ほら、悪役としては寝巻に乱れ髪で敵前に出るわけにはいかないだろう? 常に、身なりを整えて、優雅でなくては。仮にも悪役を名乗るのならね」


ふふんと、エリオスは鼻を鳴らして見せる。そんな彼の姿に、シャールはふと違和感を感じた気がした。何が気になったのかというコトすら、瞬く間に時間に押し流されるほどの些細な違和感。その正体が何なのか分からないままに、シャールはじっとエリオスを見つめていた。

エリオスは、そんなシャールをちらと一瞥してから、小さくため息をついて視線をアリキーノたちに移した。そして、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべて宣う。


「さて、君たち。諸君は私から色々なものを奪おうとした。館、検体、『ご主人様』、そして私自身‥‥‥そんな君たちだ。なら――」


そこで言葉を切ってから、エリオスは口の端を吊り上げて歯をむき出して嗤う。その姿は、獲物を前にした肉食獣のようで、シャールはあの時感じたのと同じ怖気が背筋に走るのを感じる。

エリオスは、小首を傾げて問いかける。


「当然、それ以上を私から奪われる覚悟はあるのだろうね?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 人間の悪性を知ってるくせに、余裕ぶって敵対者を取り逃し、大事な情報を持ち帰らせる。それがもとで身内を危機に晒してる時点で、悪党としては無能です。カッコいい憧れの悪役じゃなく、見た目だけで頭の…
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