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Ep.7-42

「――はい?」


サウリナの言葉に、シャールやリリス、エリオスさえも、果ては「門を開けろ」と口にしたユーラリアでさえも呆然としてぽかんと口を開ける。

狼狽えたようにユーラリアはシャールたちの方を振り返り、まるで助けを求めるような視線を向けるが、この状況に何か答えを出すことが出来る者などいなかった。

そんな中、サウリナの号令に従い彼女の背後の魔物たちは城門へとつながる道を開ける。それと同時に重厚な城門がゆっくりと開いて城壁の向こうの居住区が垣間見える。

まさか本当に城門を開くだなんて思っていなくて、シャールたちはその場に立ち尽くす。


「どういうつもりです……?」


「これは異なことを。城門を開き王の下へとお連れせよと仰ったのは御身ではありませんでしたか? 今は戦の最中ゆえ、王の下へとお連れすることは叶いませんが、せめて城門くらい開くのが主人への客を迎える従者としての礼儀では?」


滔々と、淡々とそう口にするサウリナの表情は驚くほどに無表情だった。


「罠、でしょうか……?」


シャールは思わず傍のエリシアに問いかける。彼女は表情を凍らせたまま、口だけ動かすようにしてシャールの問いに答える。


「——分からない。ただ、少なくとも冗談では無いんだろうね」


そう、明らかにこれはユーラリアの軽口への応酬ではない。戦の最中に、敵陣の最高戦力を前にして城門を開くだなんて、冗談では済まされない。たとえ彼女に城門を通す気が無かったとしても、実際に開けてしまえば入り込まれる可能性が発生してしまうのだから。

ユーラリアも同じようなことを思ってか、片眉を上げて問う。


「本気なのですか、サウリナ殿」


「好きに解釈していただいて構いませんよ。罠と捉えて尻尾を巻いて逃げても、好機と捉えていただいても。ご随意に」


仮面でも貼り付けたかのように表情を変えないサウリナに困惑するユーラリア。そんな彼女の背後から、エリオスが口を開いた。


「行こうじゃないか。せっかく道を開けてくれているんだからさ。たとえ罠があったとして、このメンツを仕留め切れるとは思えないし」


そう言ってエリオスはにんまりと笑ってみせる。

その言葉に決意を固めたように、ユーラリアは小さくため息を吐くと、じっとサウリナとその奥に開いた城門を見つめる。


「行きましょう」


そう言ってユーラリアはゆっくりと、泰然と、城門に向かって歩いていく。その後に、シャールたちも列を成して続く。

彼らが近づくと、サウリナは剣を腰に戻して道を譲るように、踵を返す。

そんな彼女にすれ違う瞬間、ユーラリアは小さく呟くようにして告げる。


「後悔しても知りませんよ」


その言葉にサウリナはため息を漏らしながらゆるゆると首を振る。


「御身がそれを言うべき相手は、私ではありません」


ユーラリアはサウリナの言葉を聞いてなお、振り返ることなくそのまま城門へと向かう。

城門までの道を開け、脇に控える魔物たちの目は敵意や害意に溢れていた。しかし、その誰もが微動だにすることなく、ましてや武器にすら手を伸ばすことなく、まるで貴人を遇する閲兵式のように並び立っていた。

いつ彼らが攻撃に転じるかと身構えていたシャールだったが、その不安は実現することなく、彼女たちは口を開けた城門の前にすんなりとたどり着いた。


「リリスさん、魔術的な罠の様子はありますか?」


ユーラリアが問いかけると、リリスは数瞬の間城門と城壁、そしてその向こう側へと視線を向けたがゆるゆると首を横に振る。


「城壁と城門に堅牢な防御術式は組み込まれていますが、それ以外は。攻撃的な術式は無さそうです」


「そうですか。では、行きましょうか」


ユーラリアはそう言うと聖剣を抜き、城門をくぐる。その後に続いてシャールたちも城門を抜けていく。

彼らの姿がそっくりと城門の向こうへ行ったのを見送るサウリナの肩に、一羽の烏が舞い降りた。


『ご苦労だったのう、サウリナ』


「全くです。城門を開いて彼らを城の中に入れろだなんて——正気とは思えません」


『それでも信じてくれたのだから、我は忠臣に恵まれておるわ』


喋る烏に向けてサウリナはちらと視線を向けて、深いため息を吐いた。


「その忠臣の心労も少しはお考え下さいませ、モルゴース様」

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