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Ep.7-41

ユーラリアを先頭に、シャールたちは混戦を極める聖教国軍と魔王軍の尖兵たちの交戦地点から脱して、敵陣の中枢――城門へと向かって行く。

その間にも、彼らを逃がすまいと魔獣たちが交戦の中から飛び出して襲い掛かって来るが、そんな単発の攻撃は、ことごとく聖剣の権能やリリスの魔術、エリオスの権能によって退けられる。

城門が間近に迫ってきたとき、ふいにユーラリアが足を止めた。

敵陣の最前、城門の前に一人の剣士が立っていたから。

青い短髪を風に揺らし、腰には幾本もの剣を佩びている。周囲の魔物とは一線を画すようなその威圧感に、ユーラリアは目を細めると同時に薄い笑みを浮かべる。


「――紫電卿サウリナ殿とお見受けいたしますが、いかがでしょうか」


ユーラリアの穏やかな言葉に応じるように、剣士は優美に腰を軽く折ると、胸に手を当てて名乗る。


「ええ。私の名はサウリナ、モルゴース陛下の下で恐れ多くも三卿の地位に封ぜられた者です。そういう貴女は、聖教国最高巫司たるユーラリア猊下でよろしかったでしょうか?」


「その通りです。あなた方の王――魔王モルゴースを倒しにやってきたのですよ」


悠然と笑って見せるユーラリアに対して、サウリナはその表情をぴくりとも動かすことなく、聖剣使いたちを見据えていた。

シャールはそんなサウリナをじっと観察してみる。

サウリナの姿は一見すると、ほとんど人間と変わらないように見えた。肌の色も肢体の均衡も、口の端から覗く白い歯も、青い髪の隙間から見え隠れする曲線を描く耳も。角もなく、翼もないその姿は人間と言われれば信じてしまうだろうと思えるほどに、シャールたちと差異の無いものだった。

しかし、その目に宿る光は明らかに人類に対する敵対者としての殺意や敵意に満ちていた。ともすれば、モルゴースや他の魔物以上に。

続けてシャールは彼女の背後へと目を転じた。

彼女の背後には千年を超える時を生きた大樹にも勝るほどの身の丈を持った巨人が十数体、それには劣るものの重武装をした巨大なオークやオーガ、騎士装をした魔人たち。その他不定形の怪物や魔獣などが所狭しと並んでいる。先ほどまで交戦していた尖兵たちよりも彼らの練度がはるかに優れているのは、シャールの目から見ても明らかだった。

それは皆、彼らの背後にある城門を守るために集められたのだろう。

巨人たちの背丈を越えるほどに高く聳える石造りの城壁。そしてその堅牢な石壁に据え付けられた、黒い金属でできた高く大きな城門。

おそらく魔術的な防御が施されているのだろうが、たとえそれが無くともこの城門は如何なる破城槌で以ってしても破れないと思わせるほどの威圧感があった。

自分たちは今からこの敵軍を打ち払い、サウリナを撃退した上でこの城門に挑まねばならないのかと、シャールは重苦しい気分に包まれる。

そんな中、ユーラリアは黙したまま自分達を見つめるサウリナに、どこか揶揄うような調子で言葉を続ける。


「どうでしょう、サウリナ殿? せっかく神の代理人たる最高巫司が魔王に会いに来て差し上げたのです——道を開け、速やかに主人の下へと連れゆくのが礼儀では?」


皮肉っぽい軽い言葉だったが、その言葉には強い威圧感が毒のように込められていた。それこそ、正面から投げかけられれば、シャールであれば恐怖すら覚えるほどに。

だがサウリナはそれに動じることもなく、剣を抜く。そんな彼女の動きに一斉にシャールたちは身構えた。しかし——


「全軍に通達。客人の訪問である、速やかに道を開け。開門せよ。繰り返す、開門せよ」


サウリナは顔色を変えることなくそう言った。

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