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Ep.7-40

「――聖教国軍の本隊が合流しておりますが、いかがいたしましょう」


城門の前に建てられた櫓の上で戦況を眺めるサウリナに、そばに控える魔人の騎士がそう問うた。サウリナは、目を細めながら思考を巡らせる。

敵本隊がやってきた以上、こちらも尖兵程度の規模の軍勢を差し向けるだけでは流石に足りない。兵をこちらも動かす必要があるが、問題はどれだけの兵を投入するかだ。

できることならば、全軍の大部分を投入して一気に攻め込んできた敵軍を魔族の圧倒的膂力・攻撃力と数の力で以て撃破し、そのままの勢いを保って敵本陣へと攻め上るのが一番良い。素早く、犠牲も少なくこの戦役を終結させることが出来るのだから。

ただの力比べの戦争であればそれでよい。だが、この戦には鬼札がある。

四振りの聖剣とアルカラゴスを二度にわたって退けたあの少年――彼らがいる以上、こちらの力押し数押しが必ずしも有効に働くという確証はない。もし、軍の大部分を投入して、鏖殺されてしまっては最も重要なこの城に賊軍を招き入れてしまうことになる。であれば、城を守るために全軍を守備に固めて、今攻撃を行っている尖兵たちもできる限り引き戻すべきだろうか。

そろそろサルマンガルドの不死者兵たちを投入しても良い頃合いだ。生ある貴重な戦力は引き下げて、死者たちに一時働いてもらおうか。

そんなことを思っていた時、サウリナは思わず表情を凍り付かせた。

魔王軍と交戦中の聖教国軍の中から、五つの影が抜け出てきたからだ。その姿は、サウリナも十分に見知ったものだった。

懸念していた五枚の鬼札が、悠然と剣戟のただ中から歩み出て、こちらに向かってくるのだ。


「――ッ」


さて、どうしたものか。

サウリナとしては、彼らは敵味方入り乱れる混戦の中で処理する腹積りだった。こちらの雑兵たちでは、正面切ってやり合えるなどとは思っていなかったからだ。暗殺じみたやり方で殺そうと思っていたのに、こうして彼らだけ出てきてしまうと、その計画が狂ってしまう。

魔物たちの大軍勢を彼ら五人のために差し向けて、圧倒的な数の力で押しつぶすか?

否、かつて見たモルゴースの操る聖剣の権能、そしてこの戦場でみた彼らの戦いぶりを見るに、それはむやみに兵を失うだけの愚策となろう。

サルマンガルドの軍勢であっても、神聖魔術を極めた最高巫司がいる以上あまり意味を成すまい。

そうなれば、どうするか。

——ここはいっそ、自分が彼らと刃を交えるか……

そんな愚策中の愚策すら脳裏を過った瞬間のことだった。

彼女の目の前、櫓の手摺りに一羽の烏が舞い降りた。

その姿にサウリナは息を呑む。


『くく、良い顔をしておるではないか。サウリナ』


烏が喋った。

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