Ep.7-35
絞め殺しの木という植物がある。
それはある共通する特徴を持つ複数とつる植物の俗称である。その植物は地面から生え出ると、手近な他の木の表面を這うように絡みつき、成長する。
最初はただのつる植物のように、だが次第にそれは蔓の域を超えて成長し、幹と呼べるほどになり、果ては宿主であったはずの木を絞めあげて殺す。
宿主が死に、枯れ腐り果ててなお、その植物は裡側に虚を抱えたまま泰然とあり続けるそうだ。
「苦しい、ですよね」
シャールはそう思わず零した。
目の前でオーガたちの肢体がぎりぎりと音を立てながら締め上げられている。彼らの巨大な体躯はみるみるうちに太く巨大な蔓とも幹ともつかないソレに覆われて、足の指の一つさえも動かせなくなっていく。その様は、まさしく図鑑で見て、彼女が先程脳裏に描いた絞め殺しの木そのものだった。
オーガたちが白目を剥き、口の端から泡を吹き始める。
人間とは全く違う肌の色、耳元まで裂けた口の端から覗く鋭い牙。人を簡単に殺せる腕——今目の前にいるのは化け物だ、怪物だ。そう分かっているはずなのに、シャールは彼らが苦しむ様に、まるで人間の苦悶する様を見るような胸を掻きむしられる感覚に襲われる。
もがくオーガたち。しかし、みるみるうちに成長していく絞め殺しの木は、彼らがもがく度に生じる僅かな隙間まで埋め尽くして完全に彼らを拘束し、締め上げていく。
「ごめんなさい」
シャールは思わずそう零していた。
自分が悪いことをしていると思ったからではない。これは戦争で、彼らだって自分を殺しにきた。だから、それに対して抵抗するのは生き物として自然なことだ。
自分がとった手段だって、過剰なことや間違ったことをしたつもりはない。シャールが彼らに勝つためには、同時に彼らを拘束する必要があった。そうしなければ、いずれか一体にかかりきりになれば他の二体に殺されていただろうから。膂力に優れたオーガを止めるにはこれくらいの植物の力が必要だったはずだから。
それでも、じわじわと生きたまま殺されていく彼らの苦悶の声にシャールは唇を噛む。
「すぐに——楽に」
そう、これが最適解。
そう信じるが故にシャールは聖剣を振るう。鋭く、輝ける剣戟を三連。その斬撃は的確に、一切の乱れなくオーガたちの首を刎ね、その命を刈り取った。
三つの首が地面に落ちて重い音が響くなか、彼らの残された身体はみるみるうちにいっそう太く高くなっていく蔓の中に飲み込まれ、押しつぶされて消えていく。
戦闘は続く。背後ではザロアスタが率いてきた軍勢やリリス、エリシア、ユーラリアたちも剣を振るい魔物たちに応戦している。
それを横目にしながら、シャールは次の敵へと斬りかかった。




