Ep.7-34
それはまるで黄金の嵐が吹き荒れるようだった。
敵陣の面前へと降り立ったユーラリアは、展開した鎖を思うさまに暴れ回らせ、それに怯む敵兵を踊るようにその聖剣で切り裂いていく。きらめく鎖と聖剣の輝きは、上り始めた日の光を受けて得も言われぬ美しさを帯びていた。
そんな彼女に引き続いて、シャールたち聖剣使いやザロアスタ麾下の兵士たちも交戦を開始した。
「――焼き尽くせ、ヴァイスト」
目の前に波のように迫る『蟲』の集団を前に、エリシアは嫌悪感を滲ませながらも目を細めながら聖剣を横一線に薙ぐ。その瞬間、剣の軌跡から炎が現れて『蟲』たちを飲み込む。もだえ苦しむ『蟲』たちをエリシアは両断し、続けてその後ろに迫る魔獣たちに襲い掛かる。
勇猛に戦う彼女の姿を見ながら、シャールは自分も奮戦しなくてはと剣を握る手に力を入れる。そんな彼女の眼前には、彼女の身長の二倍はありそうなオーガが3体が迫ってきていた。
その手には、乾いた赤黒い液体にまみれた大鉈が握られている。ツンと鼻を刺す腐臭にも似た刺激臭にシャールは不快感と同時に恐怖を覚えるが、唇を噛んで自分を奮い立たせる。
「――オオオ!」
「――ッ!」
目の前に迫ったオーガの一匹がシャールに向けて大鉈を振り下ろす。シャールはとっさに聖剣を目の前に構えて、その一撃を何とか受け止めるが、圧倒的な腕力差に聖剣を握りしめる手がびりびりと痺れる。続けて同時に迫っていたもう一匹のオーガが、彼女の隙を狙って首元へと刃をねじ込もうとするが、シャールは間一髪のところで体勢を低めてその一撃を回避する。
更にそれに続けて三匹目のオーガもやってきて、シャールを取り囲む。
彼らの攻撃は大振りで、小柄なシャールからすれば避けるのは容易かったけれど、一瞬でも足をもつれさせようものなら首が刎ね飛ぶという状況を続けるわけにもいかなかった。
大柄なオーガたち――その表皮は分厚く、聖剣の力によるブーストを受けているとはいえシャールの剣で一撃でとどめを刺せるとは思えなかったし、たとえそれが叶ったとしてその間に他の二匹に切り刻まれるのがオチだ。ならばどうするか――
「——『萌芽』の理を司る聖剣に冀う。大地に満ちて、生命を包む御手を私のために差し出して」
シャールはオーガたちの斬撃を回避しながら、詠い始める。脳裏に思い描くのは、エリオスの館にあった古い図鑑に描かれた南国の密林で見られる一種の植物の絵図。物騒な名前の付いたその植物は、その名の通り彼らを――
「――土も岩も支配し、時を超えるその靭さで私の道を切り拓いて。大権能、収束励起」
そこまで言った瞬間、シャールは一か八か動きを止めて聖剣を地面に突き立てる。全身を巡る魔力を聖剣へと集中させて、思い描く光景を実現せんとする。
そんな彼女にオーガたちの刃が迫る。しかし――
「オ……オオオォォォ!」
彼らの動きが止まった。シャールの頭蓋を砕くはずの刃は中空に停止してわずかに震えている。刃の持ち主たるオーガの姿にシャールは小さく一息ついた。彼らは、地面から生え出た自身の腕や足ほどの太さのある巨大な蔦に全身を締め上げられうめき声をあげていた。
シャールは小さく安堵の息を吐くと、眉を寄せてため息を吐く。
「苦しい、ですよね――ごめんなさい。すぐに、楽に」




