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Ep.7-32

「来るか……」


城壁の前の本陣の中央に立つ櫓の上で魔剣士サウリナは、目を細めて戦況を見つめていた。具体的に言えば、騎馬を駆りこちらへと向かってくる三人の聖剣使いと女魔術師、そしてその背後に追いつきつつある聖教国軍の突撃隊。

サウリナは続けてちらとその背後で黒龍アルカラゴスと向き合う少年、エリオス・カルヴェリウスの姿を見遣る。


「アルカラゴスをたった一人で止める気?――それとも、単なる捨て石か」


サウリナは小さく鼻を鳴らしながら踵を返すと、眼下に控える各部隊の部隊長たる魔物や魔人たちを見下ろす。そして剣を抜いて口を開く。


「全軍に通達、戦闘態勢に入れ。こちらに向かっているのは聖剣使いと一部隊のみだが、じきに本軍も動くはずだ。通達する、これより開始するのは迎撃にあらず。進軍である、撃滅である」


その言葉を聞くと同時に、眼下の部隊長たちは無言で深く一礼すると、弾かれるようにそれぞれの持ち場へと散っていく。そして数瞬の後、サウリナの言葉通りに戦闘の準備がみるみるうちに整えられていく。

その様に、サウリナは自分の力によるものではないことを理解しつつも、一種の全能感のようなものを感じ、それに悦を感じている自分自身にわずかに嫌悪する。

――全能などと、自分からもっとも遠い言葉なのに。


「軍団長らしくなってきましたねぇ、サウリナ卿」


不意に背後から声が聞こえる。それに驚くこともなく、サウリナはため息を一つ吐いて振り返る。


「――貴殿の持ち場は此処ではないはずだが? ナズグマール卿」


櫓の上でサウリナは、黒衣に身を包んだ青年と向かい合う。ヒトと全く変わらないような見た目なのに、その身からにじみ出る魔力はサウリナとは比にならないほどに濃密で、そして邪悪だった。その仮面のような笑みに、眉間の皺を深くしながらサウリナが問いかけるのを、ナズグマールは愉し気に見遣る。


「いえいえ、お手並みを拝見させて頂こうかと思い参じたまでのこと。いや、なかなかの軍団指揮者ぶりですねえ。とはいえ、御不満もあるのではありませんか? 貴女としてはできることならば自ら打って出て、敵を切り刻みたい性質でしょうに――こうしてじっとしているのが仕事など……」


「嫌味を言いに来たのですか、悪魔。これは陛下より直々に言い渡された役目、不満などあろうはずがありません。貴方は早く城内に戻りなさい」


「ふふふふふ、これは失礼をば。では、ご健闘をお祈りいたしております。貴女も、陛下も――嗚呼、愉しい戦の始まり――私もお相伴にあずかれることを祈っておりますよ」


慇懃に腰を折りながら、そう言ってナズグマールは消えた。彼が立っていたところをちらと見て、サウリナは忌々し気にため息を吐く。


「――厭なやつね、本当に」


それから、ちらと戦場を見て迫る敵を見て、わずかに歯噛みした。

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