Ep.7-31
「なるほど、ね」
エリオスの言葉に、ユーラリアは彼の方を振り向く。そんな彼女をちらと一瞥してから、モルゴースを見て、エリオスは口の端を皮肉っぽく吊り上げる。
「二度も見ればまあ見当もつくよね――それ、聖剣の力だよね」
「む――」
モルゴースはわずかに驚いたような表情を浮かべると、ほうと息を漏らす。そんなモルゴースの反応を確かめながら、エリオスはちらとモルゴースの足元を見やる。それから自分自身の足元をかわるがわるに見る。
「ポイントは水脈——どうかな、当たってる?」
「……驚いたのう……まさか、この短期間に見透かされようとは」
「どういうことです?」
エリオスのモルゴースのやりとりが理解できず、思わずシャールは声を上げた。そんな彼女にエリオスは鼻で笑いながら、右の手を高く掲げる。
「――『私の罪は全てを屠る』」
その瞬間彼の掌から繰り出されるのは黒い風——『暴食』の権能。その展開を認めたモルゴースやユーラリア、シャールは思わず身構えるが、黒い風はそのいずれに向かうこともなく、孤を描いて地面を抉り出す。
黒い風がひとしきり地面を抉ると、穿たれた穴から水が湧き出しはじめてくる。
「この大平原は川の水が土砂を運んだことによって形成される扇状地だからね。その成り立ちからして、地下水は自然豊富だ。モルゴースはそれを利用したんだよ」
「地下水……利用……?」
「モルゴースの聖剣、ハルヴァタートが司るのは水だからね。地下水の流れに潜り込むようにして、その存在を転移させる。また、それと同じように一時的に地下水脈に潜り込んで、アルカラゴスの衝撃波を回避したってところだろうさ」
「そんな……そんなことが、できるんですか?」
「本来的には不可能に近いだろうけどね。聖剣という奇跡の産物を媒介とすることでそれを可能にしたんだろう」
そういえば確かに、ユーラリアの鎖から逃れたときも、そして今この瞬間も、モルゴースは聖剣を地面に突き立てている。あれが、聖剣を媒介として水脈に潜るための必要な条件なのだろうか。
訥々と自分の手の内を無造作に暴き出していく彼の言葉に、モルゴースはため息混じりに目を細めて、肩を竦める。
「不躾なことよな。他人の手品のネタバラシを勝手にするなど、品性が疑われようぞ?」
窘めるように、わざとらしく唇を尖らせるモルゴースにエリオスはくつくつと喉の奥で笑いながら、見下すような視線を投げつける。
「ふん。私に屈辱を味あわせた仕返しさ。尤も、こんな小手先の嫌がらせ程度では、一割も済ませたうちには入らないけどね」
嫌味をかえしたエリオスにモルゴースは仰々しく肩を竦めてみせる。そんな二人のやりとりのさなか、ユーラリアはエリオスの言葉を反芻して、ふいに表情を固くするとエリオスとモルゴースをかわるがわるに見遣る。
「待って——待ちなさい、エリオス・カルヴェリウス。そんな芸当ができるのは……」
ユーラリアが何かを言おうとした瞬間、強い風が吹いた。
それはアルカラゴスの大きな翼が羽ばたいたことによる、旋風だった。
黒龍の目はじっとエリオスやユーラリアたちを見つめている。
エリオスはくすりと笑いながら、横目にユーラリアを見て言った。
「その話は、もう少し後にお預けのようだよ。ユーラリア嬢」




