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Ep.7-30

アルカラゴスの総身から放たれた衝撃波。それをもろに受けた大地の損壊はすさまじかった。

まるで隕石でも落ちたかのようにすり鉢状に抉られた大地のありようにその場にいた全員が絶句する。

荒野の地面を覆っていた低草植物たちは、地面と共に押しつぶされ撹拌され、土から顔を出していた岩も圧倒的な力の前に跡形もなく粉砕されている。

エリオスの『怠惰』の権能――異空間を開きあらゆる干渉をこの世界とは別の位相へと転嫁する絶対的防御――の影となった部分の地面だけが切り抜かれたように元の有様をとどめているのが、いっそうこの状況の凄烈さをシャールに感じさせる。

呆然としていたシャールは、正気を取り戻すとリリスの方へと視線を向ける。

視線の先では、リリスが杖を支えにするように座り込んでいた。衝撃に体勢を崩してしまったようだが、どうやら見たところけがはなさそうで、彼女の方も防御魔術の展開が間に合ったのだろうということが見て取れた。

ザロアスタが率いる聖教国軍の突撃隊も、衝撃波の射程のギリギリ外側でその進撃を一時停止させたためか、目だった負傷や損害は見て取れなかった。それでも数人の兵士たちは射程が今でわずかに伝わってきた衝撃波にその場に倒れ込み、あるいは腰を抜かしている。


「――おうおう、皆々無事とはのう。さすがは聖教国の持ち出した最高戦力、雑兵を殺すようにはいかぬということかのう」


そんな中、声が響いた。

シャールたちは声のする方へと視線を注ぐ。クレーターの中心、衝撃のダメージを最も受けたであろう地点に、それは立っていた。


「モルゴース――」


エリオスは歯噛みしながらつぶやくように言った。

衝撃波の傷跡の中心でにんまりと笑いながら、魔王モルゴースは地面に突き立てた聖剣の柄に手を置きつつ、やれやれとわざとらしく肩をすくめて見せる。


「ここで其方らを一掃できればこれほど楽なことは無かったのだがのう。ま、是非もなしか――」


「……なんで……そんなところで立っていられる?」


飄々と笑うモルゴースにエリオスは眉間にしわを寄せながら問いかける。

シャールは一瞬エリオスの問いかけの意味が分からなかった。しかしすぐにその意味に気が付く。

モルゴースの足元の大地、そこはエリオスやリリスの足下のように元の地面が残っているわけではない。その足元は確かに衝撃波によって破壊し尽くされていた。

だというのに、モルゴースは平然とその場に立っている。衝撃波を放ったアルカラゴスの直下に立っていたというのに。

困惑の表情を浮かべるエリオス。


「――転移」


その様子を見ながら、ユーラリアはぽつりと零す。

彼女の脳裏には、ほんの少し前の戦いでの一幕が浮かんでいた。聖剣マナフの権能の鎖から抜け出したモルゴースの姿、あれはまさしく転移と呼ぶにふさわしい事象だった。

その絡繰りの裏側は分からない、しかしユーラリアは、モルゴースはアルカラゴスの衝撃波を逃れるためにそれを用いていたはずだと確信していた。

そんな彼女の言葉に、エリオスはぴくりと眉を動かす。


「……なるほど、ね」


そう言ってエリオスは口の端を吊り上げた。

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