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Ep.7-28

「聖剣使い……まさか、あの距離から……?」


剣戟を防がれたモルゴースは、大きく飛び退き敵の本陣を睨みつけて歯噛みする。

聖教国軍の本陣から一直線に伸びた鉱物の牙の群れは、ユーラリアとモルゴースを囲む黒い光の壁さえも突破して、二人の間を隔てた。そして、それだけにはとどまらず金色の牙は、光の壁が描き出す円形を両断し、噛み裂いた。

ドーム状に展開された光の壁は、その根元から徐々に崩壊を始める。


「――ッ、結界まで破るか……」


「どうですか、私の優秀な部下の力は」


舌打ちしたモルゴースに、ユーラリアはにんまりと笑いながらそう言った。その得意げな顔にモルゴースは、苦々し気な笑みを浮かべて応じる。それから、ちらと聖教国軍の本陣に佇むレイチェルの姿とユーラリアの姿を見比べて眉根を寄せる。


「なるほどな……本当に優秀な部下のようだな。彼女も其方と同じことが出来たというわけだ――『神格憑衣』、か」


「さすがは魔王モルゴース殿。魔力の質から見破ったのかしら」


「――まあの。あの光は確かに神格の域に在するチカラ。であれば、あの超長距離からの権能効果の到達もうなずける。尤も、大地に属する権能であるという点も味方しているのだろうがな」


モルゴースは淡々とそう応えた。

二人が言葉を交わす間にも、結界の崩壊は進んでいく。いよいよ結界の残部と地面の隙間から、結界内へとシャールやリリス、そしてエリオスが入り込んでくる。それを横目に、モルゴースは小さく舌打ちをした。


「――ふん。お遊戯は此処で終わり、かのう」


「貴方の命運も、ここで終わらせて差し上げましょうか」


モルゴースの言葉に、ユーラリアはそう答えて聖剣の切っ先を向ける。シャールやリリスもまた、同じように武器を構えてモルゴースににじり寄る。聖教国軍本陣からこちらに向かってくる兵士たちとも、あと数十秒で接触することになる。

モルゴースは肩をすくめてやれやれとため息を吐く。


「よかろう。此度の遊戯は其方らの勝ちだ――戦意をくじくための我が試みも失敗に終わった。その二点は認めよう。だがな――」


モルゴースはそこで言葉を切ると、ちらと天を仰ぐ。

その瞬間、巨大な羽ばたきの音が辺りに響き渡った。その瞬間、モルゴース以外のその場にいた全員が表情を一変させた。


「これで決着がついたなどと思ってもらっては困る、これで趨勢が傾いたなどとうぬぼれてもらっては困る――我らの戦力はまだ、一厘たりとも開示しておらぬ。戦はまだ、始まったばかりなのだから」


そう言って、モルゴースは手を高く天へと掲げる。その瞬間、まだ残っていた光のドームが、ガラス窓に石を投げ込んだように割れ砕ける。

そしてその向こうには、空を覆うような巨大な翼を羽ばたかせる黒龍――アルカラゴスがこちらを見つめていた。

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