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Ep.7-25

「剣を振るい、魔術を操り、その小さく華奢な身体で暗黒大陸の覇者たる魔王と戦う彼女の姿を見て、それから自分自身を顧みたとき諸君は何を思う?」


レイチェルは問いかける。それは自分自身に対する問いであり、自分自身への腹立たしさをぶつけるようなものでもあった。自然、ここまで抑えてきた熱が昂り始める。


「私は……私は自分が不甲斐ない。あの方の隣にいられない自分が、ここでただ見ているだけの自分に無性に腹が立つ!」


ユーラリアのように、冷静に言葉を紡ごうと思っていた。自分の感情を鉄の仮面で覆って、兵たちを鼓舞するためだけの美しい鍍金を施した言葉を紡ごうと思っていたのに。

鍍金ははがれ始める。冷たい鉄の仮面は融け落ちる。

そして、激情を隠しきれない自分が表出する。


「私は何のためにここまであの人に仕えてきた! 私は何のためにここまで鍛錬を重ねてきた! 何のためにこんなところまでやってきた! 何のためにこんな大仰な肩書きを名乗っている! 私は——私は、許せない。何が、誰をと言われれても答えられないけれど、ただただ不甲斐なくて、口惜しくて、悲しくて辛くて苦しくて悶えそうで——」


感情が嵐のように荒れ狂う。普段、レイチェルは口数が多い方では無いと自認している。だが、今はそれどころではなかった。溢れ出る感情が、言葉となって、とめどない激流となる。

一通りの言葉を吐き切ったレイチェルは、深く息を吸い込み、呼吸を整える。頭が冴え渡ってきた。レイチェルは声のトーンを落として、穏やかな口調を取り戻す。この緩急もまた、ユーラリアがよく使っている技法だった。真似したつもりはなかったけれど、自然と彼女に倣う形になっていたことをこの時点でレイチェルはまだ気が付いてはいなかった。

レイチェルは一音一音を兵士たちの心の中に置くように言葉を紡ぐ。


「——貴君らはどうだろう。暗黒大陸までやってきた、人類の防人たる兵士諸君。貴君らはどう思う、彼女の姿を。そしてそれと対比した自分の姿を——どう感じた」


レイチェルは静かに兵士たちに問いかける。その言葉に、兵士たちは押し黙る。

そんな中でも、ユーラリアと魔王の戦いは続いている。その戦いは激しさを増し、一進一退のギリギリの戦いが演じられている。それを見つめながら、レイチェルは唇を噛む。


「敵は強大で、残忍で、悪辣だ。今まで貴君らが対面してきたあらゆる敵を凌駕する、まさに神話の怪物にも比肩する存在だ。恐れるのは当然だ、脚がすくむのも仕方ない。絶望するのも、逃げたくなるのも——その感情を私は非難することはできない。だが——」


その瞬間、遠くでユーラリアが踊るように鎖と聖剣を操りながら戦い始める。春の嵐のように輝く鎖を操りながら踊り狂いながら戦う彼女の姿は、瞬く間に遠くから見つめるだけの兵士たちさえも魅了する。

彼女の攻勢が一瞬強まったのを見て、レイチェルは拳を握りしめる。


「だが! 彼女を——我らが最高巫司猊下の姿を見てほしい! 魔王の恐ろしさに直面しているのは彼女だって同じなのだ。なのに、彼女はこうして戦っている、たった一人でだ!」


その言葉は強く、その場の空気を打った。

兵士たちは静まり返る。レイチェルは自分の紡ぐ言葉が、彼らの胸に届いているのか不安だった。でも、もはやここまで来れば突っ走るしかないのだ。


「勇敢なる戦士たちよ、気高き防人たちよ、誉れ高き英傑たちよ、敬愛すべき同志たちよ。私は願う、貴君らの胸に私と同じ滾りがあることを。私は願う、貴君らの拳が、武器を持たぬ空虚に打ち震えていることを——彼女の下へと馳せ参じ、戦士の誉を成さんと欲していることを!」

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