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Ep.7-13

「膠着したこの状況から、戦端を開くため。だろうか」


不意に背後から響いた声にシャールたちは振り返る。彼らの視線の先には、唇を引き結んだレイチェルが立っていた。シャールたちの視線にさらされて、気まずそうに目線を逸らして腕を組む。


「総大将が自ら先陣に立つことで、固まった敵陣を刺激し打って出させるように誘導する。交戦が始まれば、魔王は再び城内へと退いて、あとは飛び込んできた兵士たちを魔王軍が掃討する、と言ったところでしょうか」


レイチェルの言葉に、エリシアが少し表情を緩めて頷く。


「ボクもそう思う——今の状況、兵士たちは敵の総大将を討ち取ると言う一発逆転の可能性に賭けて捨て鉢気味に命令無視で突っ込む奴が出てこないとも限らない」


「そうやって作戦行動が乱れれば、自陣の維持が難しくなるでしょうね。恐らくそれがモルゴースの狙い。そして、そんな魔王の策を打ち破るには、自陣の維持の員数外の者があたる他ない——と」


そう言ってレイチェルは、ちらとユーラリアの方を見る。

自陣の維持の員数外——即ち、もとから陣で魔王軍の兵士たちと交戦することが予定されていない者。つまり、魔王城への突入メンバーのことを指すのだろう。

レイチェルは小さくため息を吐き、歯を噛み締める。


「今でも、認めた訳ではありません。出来ることなら、貴女にはこちらにとどまっていただきたい……」


「……そう、でしょうね。貴女は、そういう人ですもの。でも、魔王が出てきた以上、私が出ないわけにもいかない。それは貴女も分かっているはずです」


ユーラリアは依然として先ほどとは変わらない毅然とした、あるいは意固地な態度でレイチェルの言葉を突っぱねる。そんな彼女を、レイチェルは先ほどよりも落ち着いた表情で見つめる。


「分かっています、猊下。でも、それはそれとして私が、貴女が戦場に出るなどということを許容できない性質であることも貴女はご存じでしょう」


「ええ。だというのに、貴女はどうして戻ってきてくれたのです?」


ユーラリアは目を伏せがちにそう問うた。その目には僅かな怯えのようなものがちらついているようにシャールには見えた。そんな彼女を見つめながら、レイチェルはゆるゆるとかぶりを振る。


「——後悔したく無かったからです」


「こう、かい……?」


「私は貴女が戦場へ出るのは反対です。きっとこの先もその考えは変わらない——でも、そのために貴女の敵にはなりたくないのです。あのまま戦場へと発つ貴女を見送れば、きっとわたしは後悔する」


レイチェルはそう言って目を閉じて、ユーラリアの前に跪く。それから一呼吸置いて、レイチェルはユーラリアを見上げ僅かに微笑んだ。


「私は貴女を守り、貴女の道を開くための力でありたいのです。私の人生も魂も、そのために使いたいのです。だって私は、貴女の騎士ですから」


そう言い切ったレイチェルと、僅かに戸惑いの色を浮かべるユーラリア。二人のその姿に、リリスは少し安心したように笑みを零した。

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