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Ep.7-11

「――あれは……!」


本陣の最前に立っていたレイチェルとリリスは、目の前の光景に絶句した。魔物や魔人がひしめく敵陣に、不意に一筋の道が開けた。それと同時に敵陣の背後に鎮座する城壁の重苦しい門が開く。

そこから一騎、歩み進む影が現れる。青鹿毛に金色の角を生やした二角獣に乗って、その歩みに合わせて長い髪を揺らす姿に、二人は息を呑む。

つい半日ほど前に合間見えたかの者の姿——


「魔王……モルゴース……!」


レイチェルは思わずその名を口にする。

モルゴースは陣の最前線へと至ると、ゆっくりと手綱を引いて騎馬を停止させる。そして、じっとこちらの本陣を見つめている。

その姿に、レイチェルもリリスも思わず息を呑む。

魔王モルゴース——あのエリオス・カルヴェリウスすら敗北へと追い込んだ強力な魔性。溢れ出る魔力は、もはや隠す気などさらさらないようで、その様を目にするだけで正気を失いそうになる。


「――まさか魔王自ら前線に……いえ、あの魔王ならやりかねないですわね……」


リリスは驚きと共にどこか呆れたような表情を浮かべながらため息交じりにそう言った。確かに、敵軍のただ中に単騎で襲撃をかけるあの魔王であれば、最前線に出てくるのも予想はついた。

しかし、今回はどうにも自身が戦いに出てきたわけではないように見えた――そう、きっと更にこちらの軍勢の戦意を削ぐことを目的としているのだろう。

全軍にとってトラウマとなっているモルゴース自身が姿を見せることで、恐怖を煽り統率を狂わせて戦意を削ぎより安全かつ簡便に戦いを進めることを狙っているのだろう。


「――レイチェル卿、ここで失礼いたしますわ。魔王が前線に出てきた以上、いつ戦端が開かれてもおかしくありませんから」


「あ、ああ……そう、ですね」


リリスは慇懃に腰を折ると踵を返して本陣のテントへと戻っていく。そんな中、ふとリリスは足を止めて、レイチェルの方を振り返ることなく口を開く。


「一応、もう一度だけ言っておきますわね。貴女はきっとこのままだと後悔する……猊下の策を肯定しろとも否定しろとも言いませんけれど……今生の別れになるかもしれませんからね、私ともあの方とも」


それだけ言うと、リリスは振り返ることもレイチェルの反応を確かめることもなく、動揺し喧噪を奏でたてる兵士たちの中へと消えていく。そんな彼女を見送るレイチェルは静かに唇を噛んだ。


「——わた、しは……あの方に……あの方を……」


目を閉じる。瞼の裏に浮かぶのは、本陣のテントを出て行く時に見た彼女の顔。らしくもなく慌てて、悲しそうな表情を浮かべて手を伸ばす彼女の姿。それだけが焼き付いたように浮かび上がるのだ。それ以外が思い出せないほどに。


「——ッ!」


レイチェルは遠くの魔王を睨んでから、踵を返した。

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