Ep.7-9
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「彼女にも君の得意技を使ってあげればよかったのに」
エリオスの言葉に、ユーラリアは僅かに眉間に皺を寄せるが、あくまでその表情には笑みが貼り付いていた。
「——なんのことでしょう」
「まさか気づかれてないとでも思ってた訳じゃあないよね? 私にも彼女にもバレバレだよ」
とぼけたような声で問い返したユーラリアに、エリオスは皮肉っぽい笑みを浮かべてそう応える。ユーラリアは僅かに逡巡しながらも、諦めたように小さくため息を吐いて、椅子の背もたれに全身を預ける。
「なら、しょうがないですね」
「エリオス——貴女は一体何を言ってるんです……?」
シャールはエリオスの言葉の意味を図りかねて問いかける。エリオスはそんな彼女に嘲るような笑みを浮かべながら口を開く。
「なぁに? 気がついてなかったの? 彼女がばら撒いていた『毒』のコト」
「ど、く……?」
エリオスの言葉の意味がシャールはすぐには分からなかった。ユーラリアがばら撒いた『毒』——少し考えて、ようやくシャールはその言葉の意味を思いつく。
「もしかして……」
「そう。そのもしかして、さ。彼女は異常なまでに人身掌握術に長けている——それこそ、悪魔的なレベルで。さっきの将官を黙らせた手腕は見ただろう?」
それこそがエリオスの言う『毒』。
エリオスの言葉に、シャールは先ほどユーラリアに食ってかかっていた将官の姿を思い出す。最初は威勢が良かったのに、その勢いはみるみるうちにユーラリアと目線を合わせ言葉を交わすうちに失われ、最後にはどこか無気力な様子でテントを出て行った彼の姿を思い出す。
あれはまるで、少しずつ魂か精気でも吸い取られてしまったかのような——あるいは、ユーラリアの言葉の横糸と視線の縦糸で編まれた蜘蛛の糸に絡めとられたかのような。
あの一幕に、そんな印象を受けたのをシャールは今更ながらに思い出した。
あの感覚はエリオスの言を信じればどうやら間違ってはいなかったようだ。
エリオスはさらに続ける。
「——そもそもにおいて君は人たらしで、人間掌握に長けているタイプなんだろうけどね。それと同時に言葉と視線、そして指先一つの動きに至る所作にまで僅かな魔力を、乗せているのだろう? それで大衆の感情を操る。聖教国での出陣式のときのあの喝采はそれによるものかな」
そういえばあの時も異様なまでに喝采が鳴り響いていた。
あれも、魔力による操作の結果ということなのだろうか。しかし、きっと魔力による補助がなくとも彼女の演説は兵士たちの心を動かしただろう。そこは、なにごとにも万全を期すユーラリアの性格ゆえということか。少なくともあの時はエリオスやリリスを含め、あの場にいた誰もが彼女がばら撒く『毒』には気が付かなかった。違和感はあったのかもしれないけれど、誰も確信を持ってはいなかった。しかし——
「でも、今回は随分と露骨だったじゃないか。焦りでも出たのかな、ユーラリア嬢?」
大変申し訳ありませんが、体調が芳しくないため数日お休みをいただきます。具体的には今週の土曜日(2022.3.5)には再開させていただか予定です。
何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。




