Ep.7-7
「後悔する……私が?」
復唱するレイチェルに、リリスはこくりと頷く。その表情には笑みが浮かんでいるけれど、それは決して冗談や侮りに由来するものではなく、誠意に満ちたものであることは容易に察せられた。だが、その笑みがそう言う性質のものであるからこそ、余計にその言葉はレイチェルの胸をかきむしった。
「冗談を……私は――」
「後悔なんてしない? 本当に?」
「逆に――もし私が猊下の策に賛成したら後悔することはないとでも?」
レイチェルは逆にリリスに問いを投げる。それは逃避のようで、どこか敗北感を感じたけれど、何もかも見透かしたような表情の彼女に反撃してやりたくて、レイチェルはわざと意地の悪い問いを投げることで、自身に突き付けられる現実から逃れる。
しかし、彼女の目論見に反してリリスは動じることもなくゆるゆると首を振る。
「いいえ」
「だったら――」
「ねえレイチェル卿。貴女は一つ勘違いをしていますわ」
リリスの言葉に、レイチェルが放とうとしていた言葉が凍りつき、喉の奥へと滑り落ちていく。胸の奥が冷たくなる感覚に焦燥を感じながら、レイチェルはリリスを見つめた。
「私は別に、貴女に猊下の作戦に賛成しろだなんて言っていませんわよ」
「——ッ!」
「確かに私やエリオス・カルヴェリウスは猊下の作戦に賛成していますわ。ですが、別に貴女を追いかけてきたのは貴女を説得するためではありませんの。だって、先ほど猊下もおっしゃっていましたけど、極論すれば最悪貴女の理解がなくとも猊下はあの策を実行に移せるのです」
彼女の言葉はまるで氷柱のように鋭く、冷たい。
分かっている。自分の行いの無意味さなんて、自分の態度の幼稚さなんて。自分なんかがこうやってあの場からいなくなったとして、彼女の心を変えさせることなんて出来ないし、ましてや大局を動かすことなんてできはしない。
分かっている、分かっているのだ――でも、理性と衝動は相容れなくて。彼女のことを思えば思うほど、二律背反は深まり心が砕けそうになるほど暴れ出す。
「――あの方を……困らせたいわけではない……」
「ええ」
「兵の士気が下がっているのも分かっている。この士気をあげるためには大きな爆発力のあるナニカが必要であるというコトも、十分に理解している――そのために、あの方がおっしゃった策が最適解であることも……」
そうだ、いつだって彼女は正しい。彼女は与えられた状況において、およそ最適解と呼べるものを必ず導き出し、そしてそれを実行する。統制局長との権力闘争という果てしない道を選んだのだって、最高巫司という地位と教会や世界の状況、すべてを勘案しそれこそが最適解であると考えたからだ。
彼女がそんな野望を口にしたとき、自分は反対した。無謀だと。だが、未だその道行は途中だけれど、現状大勢は彼女の思うがままに動いている。結果として、彼女は正しくて自分が間違っていたのだと思い知らされている。
だとしても、だとしても――
「猊下を敵の脅威の只中へ送り込むなんて策……私が、この私が許容できるわけがない……!」




