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Ep.7-6

テントを出てからレイチェルは早足で兵士たちの群れの中を縫うように歩いていく。どこへ行くというでもなく、ただ胸の中で燃え滾る燃料が自身の意思に関係なくその足を動かしているようにさえ思えた。

そんな中、レイチェルはふと足を止める。陣の最前線、兵士たちが防塁や柵を築いているところまでやってきてしまっていたから。

レイチェルはそこからぼんやりと大平原を挟んで対峙する魔王軍を見つめる。そして、拳を強く握りしめて目を伏せる。


「――少し落ち着かれましたかしら、レイチェル卿」


「ひゃ――!」


背後から不意に響いた嫣然とした声にレイチェル卿は全身をびくりと震わせて、思わず声を漏らす。しかし、そこは武人であるレイチェルだけあって、バランスを崩すこともなく一瞬で腰の聖剣に手を伸ばしながら、すぐにでも斬りかかれるような体勢で勢いよく振り返る。

しかし、その俊敏な動きも視界に入った声の主の姿を認識すると、即座にゆるむ。


「リリス……殿」


「申し訳ございません、驚かせてしまいましたわね。戦場でこのような声の掛け方は御法度ですわね」


リリスはそう言ってクスリと微笑を零す。そんな彼女の反応に、レイチェルはきまり悪そうに愛想笑いを零すと、再び魔王軍の方を見遣る。


「――猊下に言われて私を呼び戻しに来たのですか。レイチェル殿」


感情を押し殺したような平坦な声。しかし、リリスにはそれがどこか拗ねた子供がそっぽを向いているような声にも聞こえた。リリスはそっとレイチェルの横に立つと、ゆるゆると首を横に振る。


「いいえ。私は私の意思で来たのですわ――貴女とお話をしたくて」


「私と?」


リリスの言葉に、レイチェルは思わず問い返す。しかしリリスはすぐにはレイチェルに応えずに、先ほどまで彼女が見ていた平原の彼方に陣取る軍勢を見つめていた。


「ついに、魔王との戦が始まるのですわね――あの人が立とうとしていた舞台が……ここに」


「リリス……殿?」


「嗚呼、失礼いたしましたわ。少し感傷に浸っていたのです、お許しください」


リリスは苦笑を漏らしながらそう言って、慇懃に腰を折る。レイチェルはあまり会話をしたことのない彼女との距離の測り方に苦慮しながら、どう反応すべきなのか、先ほどの言葉に触れていいものなのかを考える。


「それは構いませんが……貴女はどうして、私のところに……」


レイチェルの問いかけに、リリスはわずかにほほ笑む。その笑みは悩まし気で、複雑な色味を帯びていて、彼女が言葉を選んでいる様子をありありと感じさせた。

そしてリリスは、じっとレイチェルを見つめながら告げる。


「このままだと、きっと貴女が後悔することになると思ったから……これが理由、と言ったら納得されますかしら?」


リリスの言葉に、レイチェルの表情が引きつった。

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