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Ep.7-5

「な、何を言うのですエリオス・カルヴェリウス!」


エリオスの言葉に、レイチェルは怒りと驚きを滲ませた表情で吠える。そんな彼女にエリオスは視線を向けることなく、目を閉じたままに口を開く。


「確かに彼女の言った策は賭けだ。一歩間違えれば、軍が総崩れになる恐れもあるだろうね。でもさ、このまま開戦すれば遅かれ早かれ大敗は免れない。悪いけど、私はそんな大穴の開いた船に乗り込む気はないよ」


「――ッ! だからと言って……猊下に……何かあったら……もっと別の作戦を……こんな……」


唇を噛むレイチェルをまるで玩具でも眺めるような表情で、エリオスは更に煽り立てるように口を開く。


「おや、君は一度これと同じような作戦に協力していたじゃあないか」


「――ッ! それとこれとは話が違います! ……猊下、どうかお考え直しを」


乞うようなレイチェルの表情にユーラリアはわずかにその凛然とした顔に動揺の色をにじませる。しかし、すぐに首を横に振ると冷たく突き放すように言う。


「いやです。もうきっと、これしかないから……それに、私はけじめをつけたいのです。間違ったことをしたとは思っていない、後悔もない。ですが、正しいと確信していても……多くの兵士たちを、多くの人を巻き込んでその命を危険に晒してこの地に乗り込んだ私自身の行いへのけじめをつけたいのです。そして、そのうえで切り開きたいのです――私の望む未来を」


「――ッ!」


レイチェルはユーラリアのまっすぐな瞳に晒されて、強く唇を噛んだ。そして不意に立ち上がると、踵を返して早足でテントから出ていく。


「レイチェル――!」


ユーラリアは思わず立ち上がり彼女に向けて手を伸ばすが、すでにそこには彼女の姿はなく、テントの布扉が揺れているだけ。ユーラリアは珍しくあからさまに動揺した表情で、おろおろとし始める。


「私が行ってまいりますわ猊下」


そんな彼女にリリスがそう声をかけた。ユーラリアはリリスの方を見て、ぴくりと動きを止める。今この瞬間の彼女の表情は、ひどく幼く見えた。まるで親に怒られた子供のようで――そんな彼女に、リリスは微笑みかける。


「今猊下が追いかけるのは色々とよろしくありませんわ。貴女やレイチェル卿にとっても、軍全体にとっても……ですから、私が行ってまいります」


「ぁ――ええ。そう、ですね……ごめんなさい、お願いできますか……リリスさん」


ユーラリアはそう言って居住まいを正すと、ゆっくりと威厳を取り戻すようにして椅子に着座した。そんな彼女に嫣然と頷いてみせると、リリスは髪を靡かせながら踵を返してテントから出ていく。

テントの中は気まずい沈黙が支配する。残っていた将官の一人も黙ってテントから退出し、その場にいるのは聖剣使いとエリオスだけになる。

そんな中、エリオスは目を開けて、ちらとユーラリアの方を見遣り、皮肉っぽい表情で問いかける。


「彼女にも君の得意技を使ってあげればよかったのに」

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