Ep.7-4
「君、大概えげつないよね」
エリオスの呆れたような言葉に、ユーラリアは嫣然と微笑みつつとぼけたように小首を傾げてみせる。
「あら、なんのことでしょう? 何かお気に障ることでもありましたか、エリオス・カルヴェリウス」
「別に。それに、君の言ってる考えや策って奴が何なのか大体想像がついたからね。私としてはとりあえず満足だとも」
そう言ってエリオスはユーラリアから視線を外して目を閉じる。そんな彼の言葉と態度に苦笑を漏らしながら、ユーラリアは改めて全員の顔を眺めて告げる。
「ここにいる皆様も、先ほどの彼と同じような不安を感じていることでしょう。ですが、そう——先ほど彼に言った通り私には考えがあります。上手くいく確証は無いですが……それでも、おそらく最も効果的な彼らの士気の上げ方」
「それは……どういう……」
レイチェルが不安げに問いかけると、ユーラリアは彼女の方を向いてにっこりと微笑みかける。そんな彼女の顔に不穏なものを感じて、レイチェルは僅かに青ざめる。
「貴女には一つ、私のわがままを聞いてもらうことになります。きっと貴女は嫌がるだろうけど、これしか思いつかなかったからごめんなさいね」
「——え」
§ § §
「――承服しかねます」
ユーラリアの「策」を聞いたレイチェルは、表情を硬くしたまま首を横に振った。そんな彼女に、ユーラリアはわずかに困った顔をして、小さくため息を吐く。
「まあそうは言うと思っていましたけど……でも、貴女だって分かっているはずでしょう。これ以上に兵の士気を高める術などないということ。それに、こんなに長い付き合いなのですから、私がここまで言うからには、この策を引っ込めるつもりなどないというのだって分かっているはずですよ?」
「猊下こそ、長い付き合いなのですからお分かりのはずです。私が一体何を至上価値として、この地位についているのか。そしてその至上価値を守るためには、どんなことでもできるということも」
レイチェルの言葉に、ユーラリアはわずかに表情を歪める。しかしそれでも彼女は更に言葉を紡いでいく。
「どうしても貴女が認めないというのなら私にだって考えがあります。もとより、この策は貴女の協力なんて組み込んではいないのですから。別に貴女が反対したところで私はやりますから。他の皆さんに手伝ってもらってやりますから!」
普段は澄ましているユーラリアの言葉が、どこか子供っぽくなる。ユーラリアは啖呵を切ると、キッと視線をエリオスやシャールたちの方へと向ける。その目には「どういう言葉を発するべきか、分かっていますよね?」という強い圧が込められている。それと同時にレイチェルもまた、ぎろりと彼らの方を見遣り、同じように強い圧をかける。
シャールたちは目を見合わせてどちらに加勢すべきか答えを出せずに押し黙る。
そんな中――
「私はユーラリア嬢に賛成かな」
エリオスがあくびを噛み殺しながらそう言った。




