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Ep.7-3

「――どういうことでしょう」


ユーラリアはとぼけたような笑みを浮かべながら、将官に対して問い返す。そんな彼女の表情に、わずかに彼は苛立ったように眉間にしわを寄せると、ゆるゆると首を横に振りながら語気を強める。


「お戯れを。まさか本当に気が付いていないわけなどありますまい? 兵士たちの士気がこれ以上ないほどに下がっているということに。外を見られましたか? 見た者であれば分かるはずです、彼らがこのまま戦えるわけがない」


将官の言いたいことはこの場にいる誰もが理解していた。この問いにいったいどんな答えを返すのか。この場にいる皆の注目がユーラリアの口元に集まる。将官はここまで言ってから、不意に我に返ったかのように目を伏せながら首を垂れる。


「御無礼を……ですが……今更だということは百も承知ですが……それでも我々は、わが国より託された兵たちの命をむやみに散らすわけにはいかぬのです。無惨に負けると分かっている戦場へとむやみに突撃などさせられぬのです」


将官の言葉からは、押し殺しているけれどその下で渦巻く激しい感情が見て取れた。そんな将官の様子を見て、ユーラリアは小さくため息を吐いた。


「……貴官の御心配はもっともです。確かに私も今、この軍全体を覆う暗い空気には思うところがあります」


ユーラリアは穏やかな声で、真っ直ぐに将官を見つめながら語る。その声は、視線は、まるで染み入るように温かく胸の中へと溶け消えていく。


「ですが、貴方にも分かっているでしょう。もはや、ここまで来たからには後には引けないと。今ここで退却などしようものなら、背後から魔王軍に攻め立てられて、誰も彼もが無駄死にすることになってしまうと。もはや我々には、戦う以外の道はないと」


「それは……わかっておりますが……でも……」


シャールは将官の声にキレが無くなっていることに気がつく。まるで夢を見ているかのようなどこか輪郭の定まらないような声と言葉。まるでユーラリアの視線と言葉に絡め取られているような。そんな印象を受けた。

そんな彼にユーラリアはさらに続ける。


「大丈夫です。私には考えがあります、策があります——そして、我らには神の御加護があります。大丈夫、だから安心してください」


「……は、い……」


「どうです。少し貴方は疲れておいでのようですから、ここで息を詰まらせているのも苦しいでしょうし、少し外の空気を吸われては?」


そのユーラリアの言葉に厭に素直に応じると、将官は椅子から立ち上がり、テントの外へと向かっていく。そんな彼の後ろ姿を見送りながら、ユーラリアは苦笑する。


「少しはあの方の御心も休まると良いのですが……」


「……君、大概えげつないよね」


他人事のように心配する言葉を零したユーラリアに、エリオスは呆れたようにそう言った。

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