Ep.7-2
聖教国軍はその軍勢を四つの隊に分けて布陣していた。扇状地の要の部分にあたる位置に鎮座するメルグバンド城塞と相対するようにその正面の小高い丘に鎮座する本隊。そしてその両翼に相当する位置に分隊がそれぞれ一つずつ。そして、左翼の陣の前方の小高い丘には、小規模の隊が陣を張っている。城壁の前に一塊になっている魔王軍を機動的に攻めるための布陣として、当初から予定されていたものだった。
シャールやエリオスたちはそのうちの本隊の陣に詰めていた。
すでに聖教国軍の首脳たる各国の将官たちのほとんどは、自らの率いる軍勢を指揮するべくそれぞれの隊の陣に散っていた。軍議は既に尽くされ、後は開戦を待つばかりという状況。
そんな中、シャールは陣の中央にあるテントへと向かう。簡素な櫓が併設されたそのテントが本隊の本陣だった。
「おやシャール。戻ったのかい?」
テントの布扉を開けると、エリオスが口の端を吊り上げながら迎える。その奥には、リリスやエリシア、レイチェルやユーラリア、そして本隊に配置された兵団の将官が二人、机を囲んでいる。
「どうだい。魔物の軍勢って奴を見た感想は。なかなかに壮観だろう? それにこの軍勢の数もなかなか……戦好きというわけではないけど、こういうのを見ると少し浮足立ってくる」
「楽しそう……ですね」
シャールの低い声に、エリオスは眉をぴくりと動かしながらにんまりと笑う。言葉など無くとも、その表情が彼の高揚を雄弁に語っていた。この歴史上類を見ない大戦という舞台に、そしてその場において自身を打ち負かした魔王モルゴースと再び相まみえ、屈辱を雪ぐことができることに――その爛々と輝く目が語っていた。
「――よろしいですか? 二人とも」
剣呑とした視線で見つめ合う二人の意識を強制的に引き寄せるように、ユーラリアが口を開く。シャールとエリオスは思わず反射的にそちらに目を向けた。
ユーラリアは二人の反応に満足げにうなずくと、視線で二人に着座するように促す。エリオスとシャールはそれに従って空いた席にそれぞれ座ると、ユーラリアの方を見遣る。
「……さて、ここからは作戦行動の最終確認といたしましょう。魔王との対決のための、ね」
そう言ってユーラリアは机上の地図を手に持った権杖で指し示す。その上には、四つの隊を模した青い駒と、敵の軍勢を表す赤い駒が三つ置かれている。
「開戦は今のところ、日の出と同時を予定しています。あちらからは陽光が逆光になって、こちらの姿が見えづらくなりますからね。ですが、あちらから仕掛けられた場合にはその場で応じて開戦。同時に、対魔王の作戦行動も開始します」
対魔王の作戦行動――すなわち、聖剣使いとリリス、エリオスたち精鋭による敵陣突破、メルグバンド城塞への突入である。
「それと各位の配置と役割については……」
「それよりも……最高巫司猊下に謹んでお伺いしたいことが」
ユーラリアの言葉を、机を囲んでいた将官の一人が遮った。その振る舞いに、レイチェルは将官を睨みつけるがユーラリアはそれを手で制して、彼の眼をじっと見つめる。
「なんでしょう」
「お言葉を遮って申し訳もございません――しかし、開戦の前に一つお伺いしたい。猊下は今のこの軍の状況を見て、まともに魔王軍と戦えるとお思いか?」




