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Ep.6-141

「尤も英雄と悪人は紙一重だからね。英雄がその力と理想への執着で以って英雄となるのに対して、悪人もまた同じものを持って悪人となる。力があるからこそ『悪』を為せるし、理想や欲望への強い執着があるからこそ、『悪』を貫いて他者を不幸にしてでも自分の願いを叶えようとする」


エリオスは目を伏せがちにしながら、訥々とそう語った。確かに、そう言われてみれば英雄と悪人には大差がないように見える。だとすればその両者を分つ紙一枚とは一体何なのだろうか。

シャールはエリオスと行動を共にする中で多くの『悪人』に出会ってきた。それとユーラリアのような存在が紙一重だと言われても、シャールにはその両者が近しいものであるようには思えなかった。

そんな彼女の疑問の答えを、図らずもエリオスは語り出す。


「じゃあその二つを分けるのは何か。私は、『人を魅せることができるか否か』だと思う。多くの人を魅せ、多くの人に望まれる理想を掲げた者が英雄となり、そうでない理想を持った者——大衆に望まれない者が悪人となる」


「つまり貴方から見て、モルゴースは多くの者に望まれる理想を掲げているのだと?」


「モルゴースの掲げる理想が何なのかは分からない。実際の理想はえげつなくて醜悪で下劣なものかも知れない。でも、少なくとも私にはあの魔王はそんな『英雄』のような役を羽織って他者の前ではそれを演じている——そんな風に見えた」


モルゴースが何を思い、魔王として今の地位に立ち、人類との戦争を遂行しているのか。その本心がどこにあってどこへ向かおうとしているのかは分からない。けれど少なくとも、モルゴースが羽織る役は『悪人』のそれではなく、『英雄』という形なのだとエリオスは言う。確かに、民を傷つけられたからと、それを傷つけた兵士たちを見せしめ的に殺しにやってくるのは、苛烈ではあるけれど、民を思う英雄的君主と言えなくもない。そう考えればあながちエリオスの所感も間違ったものとは言えないのかもしれない。

その言葉に黙りこくり、考え込む面々にエリオスは僅かに口の端を吊り上げる。


「——ふふ」


「何がおかしいのです?」


「別に。ただ、まあ……手強いと思うよ? モルゴース自身を倒すのも、その理想を打ち砕くのも。何せ暗黒大陸中の魔物や魔人が従うほどの力と理想を掲げる英雄サマだからね。さて、それに対して君はどうするユーラリア?」


エリオスの言葉に、ユーラリアは小さく息を呑む。そしてそれからふっと表情を緩めると、ゆったりと立ち上がる。


「だとしても。私たちのやることは変わりません。魔王にも理想があるのだとして、だからといって私たちが折れる理由など無く、私たちが敵わない道理もない。彼らの理想が高く崇高なものだったとしても、私は私の理想がそれ以上に優れていると確信しています——だから、倒しますよ」


そのユーラリアの言葉にエリオスはくつくつと笑う。


「そ。なら是非頑張っておくれよ。そうすれば、君にベットして、傷と屈辱を負わされた私も賭け金を回収できるというものだからね」

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