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Ep.6-139

「戦場ですからね。満足なおもてなしではないけれど、何もないよりはましでしょう?」


ユーラリアはエリオスを引き留めると、そう言ってイチェルに指図して紅茶を淹れさせる。簡素な薬缶で茶葉を煮出して淹れた紅茶は、普段エリオスの屋敷で飲んでいるものとは比べるべくもないほどに、雑味があったし、香りも散逸してしまっている。はっきり言っておいしいとは言い難い。それでも口に含んだ瞬間に鼻に抜ける香りと、喉を下り落ちて強張ったような身体をほぐすその熱は、肌寒く物寂しさの支配する夜の野営地においてはいくばくかの慰めとなった。

渋味にわずかに顔を顰めながらも、金属製の無骨なカップに注がれた紅茶を飲み下すエリオスを見て、ユーラリアは苦笑を漏らしながら、懐から布の包みを取り出す。


「レイチェル。これを皆さんに配ってちょうだいな」


そう言ってユーラリアがレイチェルに配らせたのは幾枚かのビスケット。何かが載せられたわけでも混ぜ込まれているわけでもないプレーンなそれが、各々の手に渡るのを見ながら、ユーラリアはそれを口に運ぶ。そして、紅茶を一口飲んで、粉っぽいビスケットを飲み下すとエリオスに向ける。その視線に気が付いたエリオスは、眉間にしわを寄せながら問いかける。


「延長料金にしてはずいぶんと安上がりじゃない?」


「ふふ。持ち合わせが無いもので。ツケにしておいてくださいな」


「は。最高巫司サマともあろう御方が、私みたいなのにツケとはね。ま、いいけど。でもさ、君が期待するような話はできないと思うよ? なにせ私は別にモルゴースと腹を割って話し合ったわけじゃあないからね。君たち以上にアレの内面を知っているということはない」


ビスケットをかじりながらそう宣うエリオスに、ユーラリアはくすりと笑う。


「ええ、そうでしょうね。ですが私が知りたいのは私たちが知らないコトではないのです。私が知りたいのは、私たちには見えないコト」


「……どういうことかな」


「貴方はたしか自身のことを『悪役』であると称していましたね。そんな貴方から見て、モルゴースはどう映りましたか? 悪の権化たる『魔王』として映りましたか?」


ユーラリアの問いかけに、エリオスはぴくりと眉を動かして腕を組んだ。そしてわずかに考え込むと、わずかに躊躇いがちに口を開く。


「――完全に私の主観ってことになるけど……いいかな?」


「もちろんです」


「そう。なら、そうだね……あえて言うのなら、あの魔王は……私とは違う、かな」


エリオスは言葉をゆっくりと選びながら、そう口にした。

それから、わずかに押し黙り、一度口にした自分の言葉を飲み込み咀嚼し、反芻して確かめながら、小さく何度もうなずいて、ゆっくりとユーラリアを見つめて再度応える。


「――モルゴースは……そうだね。私のような悪役じゃあない。あの気質は私から言わせれば『英雄』のそれだ」

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