Ep.6-138
エリオスは、ユーラリアの求めに嫌々ながらも応じて、魔王との戦いの顛末を語った。
魔王の操る魔術やその戦闘能力、聖剣を使いこなす技術。そしてエリオスの全力の猛攻を汗一つかくことなく打ち払い、圧倒してみせたこと。彼の語ることは、みるみるシャールたちの表情を険しくさせた。
「そうですか。魔王モルゴースはそれほどまでの存在なのですね。貴方でさえも手も足も出ないほどの」
「言い方に微妙に悪意を感じるな……まあ、無様を演じたのは事実だし、そういう評価も甘んじて受け入れるけどさ」
一通り魔王との戦闘について語ったエリオスは、ユーラリアが放った感想に、ひくひくと引き攣ったような苦い笑みを浮かべる。
確かに話を聞く限り、エリオスは魔王に対して手も足も出なかったように思われた。すぐそばにいる兵士たちを損なわないために、大出力の魔力や権能発動を控えて自身に枷を嵌めていたとはいえ、あのエリオスがここまでやり込められるとは。
シャールたちにとって、エリオスはこれまで最大の脅威たる存在であった。その権能は一晩で大都市を崩壊させるほどであり、歴戦の騎士団も凶悪な盗賊団も、狂気に満ちた邪教の信徒たちでさえ、その圧倒的な力の下に一掃し、ねじ伏せてきた。そんな彼がここまで完膚なきまでに敗北したことは彼の戦いぶりを知るシャールやエリシア、そして実際に刃を交えたレイチェルにとっては凄まじい衝撃だった。
沈鬱な空気がその場に満ちる。それを敏感に感じとりながら、エリオスは小さくため息を漏らす。
「そう辛気臭い顔をしないで欲しいな。まるで葬式を梯子したみたいじゃあないか。確かに私は完全に敗北したけれど、それは別にこの戦の結末を暗示するようなものじゃあないよ?」
「どういうことです?」
ユーラリアの問いかけに、エリオスは自嘲的な笑みを浮かべながら答える。
「単純な話さ。私の権能はモルゴースと、いや聖剣と相性が悪いんだ。基本的に私の戦闘スタイルは権能でのゴリ押しだからね。それを真正面から突き崩されるとかなりしんどいのさ——いやはや、少しは戦い方を考えないとね。私も」
そんなエリオスの言葉にレイチェルは僅かに眉間に皺を寄せながら、口を開く。
「だが、確か貴殿は権能で能力を向上できるのでは無かったか? 私は貴殿と戦ったとき、それで敗北を喫した。聖剣を使ったのにも関わらず、だ。何故此度は敗北したのです? あの権能は聖剣でどうにかなるような代物では無かったと思うのですが……?」
レイチェルの言葉に、エリオスは僅かに表情を顰める。そして、僅かに言い淀み、躊躇いを見せてから答える。
「単純に君とモルゴースの力量の差だよ。多少の強化じゃあ私ではモルゴースに勝てなかった。それだけの話さ」
そう言うと、エリオスは少し不機嫌そうに腕を組むと、ユーラリアに見下すような視線を投げつける。
「そろそろいいかい? 私疲れてるんだけど」
「……いえ、あともう一つだけ」
「私、随分と丁寧にモルゴースの戦いぶりについては語ったと思うんだけど?」
エリオスはユーラリアの更なる求めに、あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべる。
「ええ。ですがまだ、モルゴースという人物についての話を聞いていませんから。刃を交えた貴方の口からぜひ聞きたいのです」
有無を言わせないユーラリアの要求に、エリオスは唇を尖らせた。




