Ep.3-10
アリキーノさんの長台詞、若干閲覧注意気味です。
苦手な方は読み飛ばしていただいても多分平気です
「ほ、本気でそんなことが出来ると思っているんですか? リリス様が王様たちにお伝えしているはずです! あの人の強さを、恐ろしさを! なのにどうして―――」
「リリス―――ああ、あの女魔術師そんな名前でしたねぇ。突然王宮にボロボロになって現れた時にはどうしたものかと。しかも、宰相閣下の娘さんの亡骸を抱きながらなんて」
シャールの問いにアリキーノはにやにやと笑いながら答える。その瞳はどこか爬虫類じみていて、シャールはその目に見つめられるだけで生理的な恐怖を感じて、立ちすくむ。そんな彼女を意に介することもなく、アリキーノは言葉を続ける。朗々と、まるで詩人が世界の美しさを歌い上げるかのように。
「挙句、下賤の身でありながら王に会わせろなどと叫び散らして、まったく品のないことこの上ない――王の御慈悲で謁見が叶ったと思えば、王の御英断にやれ『あの男に手を出してはいけない』だの、『あなたたちはわかっていない』だの。政の何たるかもしらない在野の魔術師ごときが――まあ、その後の処遇を考えるといささかすっきりしましたがね」
最後のアリキーノの言葉にシャールはひりつくような嫌な響きを感じ取った。まさか、そんなはずはない、そんなことを彼以外の人間がするはずはない――そんなささやかな期待にすがるように、シャールは唇を震わせながら問う。
「――あなたたち、リリス様をどうしたんですか」
シャールの言葉を聞き、アリキーノは口の端を悪魔のように吊り上げて、愉悦の光で瞳を煌かせながら笑った。
「はは。どう、とは。ちょっと折檻―――お仕置きをさせていただいただけですよ。我々第二師団はそういうことも得意としている集団ですので。おや、もしかして彼女の処遇に興味がおありで?」
ほほほ、と口元に手を当てながらアリキーノは嗤う。それは、何処か呆けたような顔を浮かべた目の前のシャールに向けたものか、或いは記憶の中の彼女の姿を思い出したのか。恍惚とした表情を浮かべながら、アリキーノはしゃべり続ける。
「ええ、ええよろしい! 我々まずは彼女を椅子に縛り付けて四肢の爪をはぎ取るところから始めまして――とてもきれいに整えられた爪でしてね。それが一枚一枚はがされて並べられていく様はまるで宝石商の棚のようでしたよ。彼女、手始めのこのお仕置きですでに喉をつぶすほどに大声で叫ばれましてね。まあおかげで呪文を使わないよう舌を焼く手間がいらなくなったのですが。続いて焼けた鉄の串で、ちょいちょいと。いろいろなところをつつきましたら暴れること暴れること。手足を鎖でつながれているのにそれを引きちぎろうと暴れるものですから、手首足首ぼろぼろで、歩くことも杖を持つこともままならずといった有様。
夜中になっても抵抗を続けるものですから、我々眠くなってしまいまして野卑な囚人どものいる地下牢に一晩放り込んで眠りまして―――朝になったら随分と静かになっておられましたなあ。その後はお体が傷だらけ汚れだらけだったので、消毒と目覚ましがてらに冷たい塩水に頭から逆さでお漬けしたり―――」
「う、ぇ―――ッ」
止まらないアリキーノの言葉。シャールはその場に崩れ落ち、口元を抑える。胃の奥から何か熱くどろどろとしたものが駆け上がり、シャールはそれを抑えきれずにその場で吐き出してしまう。
――リリスが受けた非道い仕打ちを想像してしまったから、それを受けるリリスの絶望と苦悶が頭の中に浮かんでしまったから。




